日本を代表するテキスタイルデザイナー、須藤玲子が織りなす布づくり【NUNO須藤玲子の見果てぬ布の旅vol.1】
ファッション業界に身に置いていれば、テキスタイルは非常に身近な存在だ。それでも須藤が手がける布の数々を目にしたら、テキスタイルが持つ可能性がここまであることに、大きな驚きを抱くのではないだろうか。言い換えると、テキスタイルへの興味と知識を持っていればいるほど、それぞれの布に込められている卓越したアイデアや、実現させる技術の高さが見えるに違いない。連載1回目となる本稿では、須藤とNUNOが歩んできた道程の、節目と言える時機を紹介したい。次回からはそれらの詳細や、須藤の活動とテキスタイルへのアプローチのユニークさ、これからの布づくりの展望などを見据えられればと思う。
設立40周年の「NUNO」、ファッション・建築・インテリア・アートを軽やかに横断
テキスタイルデザイナーの新井淳一氏が中心となってブランドが誕生したのが1983年だから、今年でちょうど40年。大学卒業後、手織り作家として活動していた須藤は、新井本人だけでなく複数の恩人知人からNUNOの設立に誘われ、不思議な縁を感じながら参加した。84年には六本木のアクシスビルにショップをオープン。87年からは須藤が中心となり、ファッション、建築・インテリア、アートといった異なる分野を軽やかに横断しながら、テキスタイルを発表し続けている。
設立当時から変わらぬコンセプトは「つくる人から使う人へ」。布をつくっている人の思いを使う人に伝えること。使う人が店頭の布を見て「シャツに仕立ててみたい」「自宅のカーテンにいいのでは」とイメージしたら、それを実現できるようサポートすること。双方の間にNUNOがあり、最善の橋渡しをすることで、日々の暮らしが豊かになり、日本が培ってきた布づくりの継続につながる。
海外でも高い評価、MoMAやV&Aにも収蔵
日本はもちろんのこと、アメリカ、イギリス、フランス、スイス、香港、ブラジルなど、これまでも国内外で数多くの展覧会を開催してきた。今回の展覧会も、2019年に香港のCHATで開催され、その後イギリスとスイスに巡回したものに、猪熊弦一郎美術館のための新作などを加えたものだ。海外にはテキスタイルやデザインに特化した美術館があることも相まって、MoMAやヴィクトリア&アルバート博物館をはじめ複数の美術館に作品が収蔵されている。