車椅子への理解を深めたい 障がい者を育てた経験から誕生した「全席車椅子」のカフェ
――車椅子に対応できる飲食店があるとないとでは、旅行できる範囲も限られてきますね。 そうなんです。旅行会社をしていると「京都で、車椅子で入れる飲食店はないですか」という問い合わせが本当に多いんです。そのたびに調べるのですが、あまりないんですよね。車椅子で複数名となると、ぜんぜんないと言って大げさではありません。 「問い合わせる」って行為はプレッシャーなんです。車椅子のユーザーは、カフェ一つとっても「入れますか」と問い合わせが必要です。カフェだけではありません。夕食・昼食・朝食、泊まる場所、さまざまな施設、旅行したいと思ったら、ありとあらゆるところに事前の問い合わせが必要で、とても手間がかかるんです。もしも自分がその立場になって、一カ所一カ所に問い合わせをしなければならなくなったら、心が折れてしまうかもしれません。 しかしながら、京都は町家や古民家など日本家屋が多いので、構造的に車椅子の入店ができない問題があります。「うなぎの寝床」と呼ばれる間口の狭い物件が多く、車椅子の方向転換ができないんですよ。世界に名だたる京都の観光地なのだから、一カ所くらい、満席でない限り車椅子で気兼ねなく入れるカフェがあってもいい。でも、ないんだから、自分で開くしかない、そんな思いでしたね。
どこの観光地でも車椅子で入店できる世の中にしたい
――カフェの開業までに障壁はありましたか。 最大の壁は物件選びでした。全席が車椅子というコンセプトなのでかなりの広さが必要ですし、京都市は他都市よりも条件が厳しい建築物バリアフリー促進条例が施行されているため、車椅子の回転運動を可能とする該当物件になかなか巡り合えなかったのです。 そんなある日、「伏見稲荷近くの大きな歯科医の建物が空いている」と聞き、やっと開業のめどが立ちました。そうしてブースごとの壁を取り除き、厨房(ちゅうぼう)を新設するところから始めたんです。レントゲンを撮影する場所が現在は更衣室になっています。 次の壁は、障害福祉サービス事業所を運営する際に必要となるサービス管理責任者を見つけなければならなかったこと。周囲の協力でやっとふさわしい方と出会えたのですが、そういった壁が立ちはだかり、開店は2年がかりでした。