車椅子への理解を深めたい 障がい者を育てた経験から誕生した「全席車椅子」のカフェ
乗車して初めてわかるバリアフリーの不完全さ
――店内は、どのような構造になっているのでしょうか。 チェアとして14台の車椅子を常設しており、さらに特殊な車椅子を5台、格納しています。ベンチ席を合わせると20名様以上をお迎えできる広さです。車椅子でのご来店の際は、常設している車椅子をたたんで席を空けるようにしています。 店内設備や備品も車椅子からの目線で設計しました。テーブルもすべてオーダーメイドです。というのも、一般的なカフェのテーブルだと、車椅子の天板が手すりにぶつかってしまうんですよ。かばんを入れるカゴを床に置くカフェも多いですが、うちでは通行の妨げにならないよう、床置きではなくテーブルのフックにかけられる仕組みにしています。
車椅子は全車、異なるデザインをカスタムオーダーしています。お出かけが楽しくなるような、かわいいデザインのものもありますよ。車椅子のユーザーの方が「今日は違う車椅子に乗ってみたい」と、乗り換える場合もあるんです。気分転換するための使い方もあるんだと気づかされました。 そんなふうに車椅子が並んでいますので、通りすがりで入ってこられる観光客は、やはり驚きますね。このあいだも「ここは病院ですか」と聞かれました。
――車椅子を試乗できるショールームとしても機能しているのですね。 車椅子のショールームはとても少ないですから、健常者が車椅子を試乗する機会って、ほとんどないんです。身体のどこも悪くないのに、病院で「この車椅子、乗ってみていいですか」とはなかなか聞けないし、断られるでしょう。 だから実際に自分が利用する立場になると、ほぼカタログを見て購入するかたちになるんです。でも1度も試乗しないまま、けっこうな金額になる車椅子を選ぶのは怖いですよね。 このカフェは座席がすべて車椅子ですから、すべてのお客様が自動的に車椅子に座ることになる。トイレも「車椅子を運転してご利用ください」と案内しています。そうすることで、移動の感覚がつかめますから。 このカフェで車椅子の選択の参考にしていただいたり、試乗の場所になったりすればいいと考えているんです。誰しも将来、車椅子が必要になる可能性がありますから、幅や高さなどの感覚をつかんでいただくのがよいかと思います。