車椅子への理解を深めたい 障がい者を育てた経験から誕生した「全席車椅子」のカフェ
全席が車椅子というバリアフリーカフェ「Wheelchair cafe SPRING」(ウィルチェアカフェ スプリング)を開店した「サポートどれみ」社長の中村敦美さん(57)。場所は世界中から観光客が訪れる京都の伏見稲荷大社から徒歩5分。ダウン症の娘の育児と末期がんの老女との出会いから、家族以外の人の理解やサポートの必要性を感じたという。車椅子を通じて「心のバリアフリー」を提唱する中村さんに話を聞いた。(聞き手 ライター・放送作家/吉村智樹) ◇中村敦美(なかむら・あつみ) 株式会社サポートどれみ代表取締役社長。介護福祉士・国内旅行業務取扱管理者。二児の母であり、姑(しゅうとめ)の介護とダウン症児の子育て経験から、介護保険外サービス中心の家事代行サービスを開始した。2020年にサポート旅行会社「バリアフリーツーリズム京都」を起業。2023年に就労継続支援B型作業所「Spring」を設立し、同時に全席車椅子のカフェ「Wheelchair cafe SPRING」をオープンした。
車椅子に触れる機会を増やしたい
――なぜ全席が車椅子というカフェを開業しようと思ったのですか。 車椅子に対する理解を深めたかったからです。私の知人が、自分の母親を車椅子に乗せて踏切を渡っていたとき、途中で遮断機が降りはじめてしまったのだそうです。その際にとっさに押す作業を手伝ってくれたのは外国人だけだったといいます。日本人は遠巻きに見ているのみでした。 決して日本人が冷たいわけでも不親切なわけでもないのです。ただ、日本の国民性なのか、自分が知らないものごとには手を出さない謙虚なところがあります。そのため、「車椅子に触った経験がない自分が手伝うと、かえって迷惑になるのではないか」と戸惑ってしまうんですね。 海外へ行くと、車椅子やベビーカーなどで困ったことが起きると周囲の人たちが当たり前にさっと手を貸している光景をよく目にします。階段を上れなくて難儀している人がいれば、たくさんの人が集まって持ちあげてくれる。それで上り終えると「サンキュー」で終わるカジュアルさがあるのです。日本はなかなかそうならない。控えめでつつましい国民性が逆にあだになってしまっています。 「車椅子のブレーキはここにある」「この部分をこう押す」「こんなちょっとの段差でもダメなんだ」と実感する機会さえあれば、みんな気軽に手を貸すし、車椅子に対するハードルが下がるのではないかと考えたんです。 ――私も車椅子の人に手を貸すのを一瞬、躊躇(ちゅうちょ)してしまうと思います。 そうですよね。そういった方々のためにも、手を貸す勇気が芽生えるカフェにしたいなと思っているんです。街のバリアフリー化が進んでいるとはいえ、過去の建造物までは変えられない事情があります。私が住む京都の建造物や景観には永い歴史や文化があり、段差や階段も文化財の一部です。それらをなくしてすべてをバリアフリー化するのは実際、難しいでしょう。 海外も、古い町並みは必ずしもバリアフリーではないですよね。だからこそ、「心のバリアフリー」を推進して、誰かを手助けするのが当たり前になったら、車椅子に乗る皆さんも街に出ることが楽しくなると思うんです。