『オシムチルドレン』につながった育成年代での指導 前田秀樹が痛感した「日本人選手の守備の意識の低さ」
強度の高い守備をやり続けたうえで、攻撃の能力を発揮できる選手
自分が日本代表としてプレーしている時、最も世界と差を感じたのは守備でした。指導者になって、サッカーを見る立場になった今もその考えは変わっていません。 現役時代、日本代表は攻撃は攻撃、守備は守備と分かれていました。日本代表にも攻撃能力の高い選手がたくさんいましたが、みんな、守備の意識が低かった。でも、海外の選手は当時から守備意識が高かったんです。センターバックやボランチでプレーしていた私は攻撃陣のカバーをする役割を担わされていました。だからこそ、日本人選手の守備の意識の低さを痛感していました。40年前から私はそれでは世界では勝てないと訴えていました。日本代表に選ばれる選手は、攻撃も守備もして、3つぐらいのポジションでプレーできるようにならないと世界では勝てない。そう言い続けていたんです。 サッカーは野球のように、攻撃の時間と守備の時間で分かれているわけではありません。攻撃も守備も求められるのが、サッカーなんです。だいぶ日本のサッカーも変わってきましたが、世界と比べると、まだまだだと思います。守備に対しての意識が低い。守備について教えられる指導者も少ないような気がしますし、Jリーグのチームも守備の組織作りには課題を抱えているチームが多いように見えます。日本には技術の高い選手が多いんですけど、守れない選手が多い。 守備の基本はボールを奪いに行くこと。簡単なことです。ボールを奪いに行くということは、相手に近づかないといけません。でも、容易に近づいたら、簡単にかわされてしまいます。それでもついていかないといけない。それを繰り返すことによって、間合いやタイミングをつかめるようになるんです。また、ボールを奪いに行くと、運動量も筋力も消耗します。強度の高い守備は負荷がかかるんです。それを厭わずにやり続けたうえで、攻撃の能力を発揮できるような選手を育てていかないといけません。世界ではそれが当たり前ですから、日本ももっと求めないといけないと思っています。 それができるようになった選手が世界で結果を残せているんだと思います。同時に、それができないと、現代のサッカーでは通用しません。簡単にゴール前に侵入されてしまう。そして、国際試合では間合いが全然違うので、対応が難しいんです。ボールを奪いに行ってかわされたら、すぐに数的優位の状況を作られてしまう。かわされてもついていく力をつけないといけないんです。とはいえ、ほとんどの選手が守備はやりたくないんです。攻撃は楽しいし、攻撃で上回れば勝てると思っている選手が多い。だから、守備を指導するのは難しいんです。ところが、守備がよければ勝てるんです。そこを理解させることが重要です。 現在、東京国際大学は守備を重視した戦いをしているわけではありませんが、守備をベースにしていないといい攻撃はできないことを選手たちに伝えています。そこをチーム全体で理解していないとチームとしていい守備をするのは難しい。体力がある時間はどのチームもいい守備はできるんです。でも、1試合持たない選手が多くて、試合終盤には間延びしてしまうことが多い。そうなるときつくなる。本当に強いチームは90分間、一定の距離を保つことができるんです。そこを求める必要があります。そのためにピッチ内でバランスを取るリーダーが必要なんです。インテリジェンスが高く、チーム全体を見渡せる選手を育てることがチームにとって大事なんです。そして、指導者はそういうことを教える力を持たないといけません。