『べらぼう』“蔦重”こと蔦屋重三郎の前半生、吉原で生まれ育ち、大門前で本屋を始める、「吉見細見」が評判に
■ 吉原大門前で本屋を始める 遊女の逃亡防止のため、吉原は四方を塀と堀で囲まれており、大門(おおもん)をただ一つの出入り口としている。 その吉原大門前に、蔦重は安永元年(1772)、23歳のとき、蔦重の義兄・中村蒼が演じる次郎兵衛が営む茶屋の軒先を借り、書店「耕書堂(こうしょうどう)」を開業したとされる。 時の将軍は、眞島秀和が演じる十代・徳川家治。この年の正月、渡辺謙が演じる田沼意次が、老中に上りつめており、「田沼時代(田沼意次が幕政の実権を握った時代)」にあった。 江戸時代の本屋は貸本業も兼ねるのが常であり、蔦重の書店も貸本業を行なっていたと考えられている(鈴木俊幸『蔦屋重三郎』)。当時の書籍は高価で、購入するのは経済的に恵まれた層に限られており、貸本屋から借りて読むのが一般的だったのだ。 貸本屋は、本の入った大きな箱を風呂敷に包み、行商人のように得意先を訪れて、本を貸した。 大門の外に出られない吉原の遊女たちにとって、貸本は数少ない楽しみの一つであり、貸本屋は遊女屋にも出入りしていた。 蔦重も本を抱え、遊女屋を回っていたのだろう。 貸本業を通じて、蔦重はよりいっそう事情通になり、それはのちの出版業で大いに活かされることなる。 ■ 吉原のガイドブックの「改め」を任される 翌安永2年(1773)頃、蔦重は、片岡愛之助が演じる鱗形屋孫兵衛(うろこがたや まごべえ)が発行する「吉原細見(よしわらさいけん)」の販売元となった。 「吉見細見」とは、いわゆる「吉原のガイドブック」の総称である。 吉原の地図や、遊女屋とそこに所属する遊女たちの名前、引手茶屋、吉原所属の芸者の一覧とその代金などが、一冊に紹介されている。通常年2回、春と秋に刊行された。 「吉見細見」の出版は貞享年間(1684~1688)頃から始まったとされ、いくつもの版元が参入していたが、宝暦8年(1758)年からは、鱗形屋孫兵衛の単独販売となった。 鱗形屋は日本橋大伝馬町に古くから店を構える老舗の大版元であり、蔦重がどのようにして鱗形屋孫兵衛と知り合ったのかはわかっていない。 「吉見細見」の販売元となった蔦重は、安永3年(1774)、「吉見細見」の「改め」役を任された。 改めとはこの場合、遊女屋の新設や撤退、遊女の入れ替わりなどの情報を収集し、編集することである(田中優子『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』)。 同年に蔦重が改めを務めた『細見嗚呼御江戸(さいけんああおえど)』が刊行された。この時、序文を書いたのが、安田顕が演じる福内鬼外(ふくちきがい)の筆名をもつ、平賀源内である。