トランプ2期目で日本に迫る追加関税と防衛費の増額要求:森教授に聞く
「アメリカ・ファースト」に2つの系統
竹中 早々と政府高官人事も固まりつつある。国務長官にマルコ・ルビオ氏、国防長官にピート・へグサス氏が指名されているが、これまでに発表されている外交、安全保障関係の陣容についてどのような印象を持たれているか。 森 トランプ政権の外交方針というのは、大きく2つの柱がある。「一国主義」と「反中国」だ。「アメリカ・ファースト」というのも2つの考え方があって、一つは「アメリカの平和と繁栄は他の国の平和と繁栄と切り離して存立し得る」という、国家主権を重んじてアメリカの国益を狭く捉える世界観で、もう一つは「アメリカは世界最高の国として、中国には絶対に負けない」という、パワー本位で国際政治を捉える世界観だ。第1次政権で国防次官補代理を務めたエルブリッジ・コルビー氏は前者を「抑制主義者(リストレイナー)」、後者を「優先主義者(プライオリタイザー)」とラベリングしている。一国主義の視点を持つ抑制主義者も、実はアメリカ国内に中国が入り込んで「経済的収奪」を働く中国に対する強い反感を持っているので、厳密には反中国路線は、優先主義者だけではなく、抑制主義者も唱えている。第2次トランプ政権で政策を取り仕切る外交・安保チームは、抑制主義者と優先主義者の2つのグループの人々で混成されるとみられる。 抑制主義はおおかたMAGA(Make America Great Again=アメリカを再び偉大にしよう)系の人たちで、アメリカが強い軍隊を作り、経済と貿易を盛んにすれば安泰とする一国主義だが、優先主義者たちは国際主義で「インド太平洋は世界の経済成長の中心地で、ここで中国が地域覇権をとることは許さない」という考え方だ。マルコ・ルビオ氏と安全保障担当大統領補佐官に起用されるマイク・ウォルツ氏は優先主義、ピート・へグセス氏と国家情報長官に起用されるトゥルシ・ギャバード氏はMAGA系の人物だとみられる。 ヘグセス氏やギャバード氏は「壊し屋」として、彼らが「ディープステイト」と呼ぶ、ワシントンの既存の官僚機構を刷新し、リストラの大ナタを振るう役割を担うとみなされている。ヘグセス氏は著書の中で「LGBTQ反対」「多様性反対」「女性は戦闘任務につけるべきではない」などと主張している。彼がもし本当に国防長官に就任したら、国防省と米軍内で「民主党的なるもの」を一掃しにかかるかもしれない。 「壊し屋」に対する強い反発が生じるだろうが、MAGA系の人々が幹部に送り込まれた官庁でリストラが本当に断行されれば、国家安全保障機構というアメリカの国際主義の基盤が細り、官僚機構の政治化が相当程度進んでいくだろう。国防省があまりに混乱する事態になれば、即応態勢への懸念すら生じかねない。省庁や議会からの反発も出てくるだろうから、どのような展開が待ち受けているか分からないが、混乱や士気の低下を招くかもしれない。