スペシャリテは鳩の香り揚げ。六本木「隼」の真上に、姉妹店となる“私房菜”が誕生!
“滷水”とは、豚背ガラや鶏ガラ、家鴨を6時間余り炊いて取ったスープをベースに、十数種類のスパイスや醤油、砂糖、塩等々で調味したタレのこと。広東省や福建省、香港、台湾などでおなじみだが、発祥の地は潮州といわれている。
「私房菜 吉田」では、ハチノス、豚タン、合鴨の3種を用意。ハチノスは2時間下茹でして滷水と合わせ、豚タンはさっとボイルした後、滷水で20~30分煮込み、合鴨は低温調理で火を入れてから滷水に漬けるなどそれぞれ異なる下ごしらえをすればこその食感、味の染み具合に吉田浩明シェフの思い入れの深さがうかがえる。
思い入れのある一皿といえば「気仙沼産吉切鮫尾ビレ濃厚鶏白湯姿煮込み」9,900円(60g)/18,700円(125g)も吉田シェフの自信作。
「あえて広東風の上湯ではなく白湯で仕立てています。ゼラチン質の豊富な吉切鮫のヒレにはこの方が合っていると思うので」との言葉通り、肉厚のフカヒレのねっとりとしたゼラチンに、濃厚な白湯のうまみがよく絡み、味わうほどに豊かな滋味が味蕾の奥底に染み渡っていく。ざくりと歯が入る食感も上々だ。
味の要とも言える白湯への意気込みも半端ではない。なんと20ℓの水に入れる具材は、老鶏1羽に鶏ガラ、手羽先、もみじ等を合わせて10kgあまり! これらを炊くこと約6時間。
「沸騰したら弱火にして静かに煮込み、最後に1時間ほど強火にして、蓋をせずに3~4ℓ程度になるまで煮詰めています」と吉田シェフ。濃厚でありながら、少しもくどさを感じさせない白湯は、火加減の妙が光るさすがのうまさ。この白湯をベースに、味付けもオイスターソースに醤油、紹興酒のみといたってシンプル。もちろん化学調味料も使っていない。
このフカヒレに限らず、料理はいずれもスタンダードかつシンプル。低温調理にしてから5年ものの紹興酒に漬けた「花彫酔翁鶏 徳島県産阿波尾鶏の紹興酒漬け」2,200円や、宮古島・八重山地方から取り寄せる魚(取材日はスジアラ)を使用した「清蒸宮古魚 宮古島直送 鮮魚の香港香り蒸し」3,960円なども、ネギや香菜といった薬味をあしらうのみ。だからこその素材感が舌に伝わり、そのしっとりと柔らかな口当たりに、精妙な火入れが感じとれる。