なぜ、コンビニや駅で「バー」が増えているの? 参入ハードルをとことん下げた“仕組み”が面白い
重厚な扉を開け、カウンター越しに高級ウイスキーを嗜(たしな)む――。そんなバーの典型的なイメージを覆し、急成長を遂げているチェーンがある。創業7年で100店舗を達成した「お酒の美術館」だ。 【画像】「山崎」「響」「竹鶴」「余市」などが並ぶ ウイスキー好き必見!「お酒の美術館」の魅力がわかる写真(全9枚) 路面やコンビニ、駅ナカなどの生活動線上に出店し、バー人口の裾野を広げつつある。業界の常識に捉われない独自の戦略と今後の展望を聞いた。
「バー文化」を身近に
お酒の美術館を運営するNBG社(京都市)は、「あらゆる生活シーンにバー文化を」という理念を掲げ、2017年2月に京都で1号店を開業した。2024年11月には105店舗に到達する計画で、バーチェーンとしては日本最大規模になる見込みという。 同社で事業統括本部長を務める長田隆志氏は、「日本のバー業界は個人店が多く、馴染みのない人にとってはハードルが高い」と指摘する。事業開始の原点は、より気軽に利用できる店舗の必要性を感じたからだという。 お酒の美術館の価格は、1杯500円からでチャージ料なし。アイテム数は約250種類で、希少なオールドボトルも提供している。独自の仕入れルートに加え、100店舗の規模を生かしたボリュームディスカウントで原価を抑え、手頃な価格設定と品質の両立を実現している。おつまみは乾きものが中心で、営業時間は店舗によって異なるが、午後3時から午前0時までが多い。 路面店や駅ナカなど、タッチポイントの多い生活動線上に出店し、外からでも店舗の内部が見えるオープンな設計を採用している。バーに馴染みのない層でも、心理的なハードルを感じずに気軽に足を運べるようにした。
7年で100店舗を達成
成長を支える大きな要因は、フランチャイズ(FC)展開だ。2024年10月現在で、100店舗のうちFCが96店舗、直営店はわずか4店舗。なぜFCを拡大できたのか。 当初は脱サラした個人や飲食未経験者でも出店できるように、初期投資を1000万円以下に抑えた。現在は物価高の影響があるものの、1400万円ほどで収まるようにしている。家賃は30万円以内で、広さは8坪以内。ワンオペが可能な運営形態で設計されている。 参入のハードルを下げた結果、異業種からFC加盟するオーナーが多いという。「お酒を扱うビジネスモデルゆえに、ロスが少なく、人材も集めやすいことが魅力になっている」(長田氏) 未経験者が多いことを踏まえ、1カ月にわたるスタート研修を用意し、ウイスキーの提供方法を中心に指導を行う。ウイスキーをメインにした業態にすることで、高度な技術を必要とするカクテルづくりよりも運営のハードルを下げている。簡素化されたオペレーションにより、短期間で必要なスキル習得、効率的な店舗運営を可能にした。 また、飲食業界でみると、物価高や人手不足が課題となっているが、これらの社会課題についても長田氏は独自の強みを挙げる。 価格面では、お酒が嗜好(しこう)品であることから、例えばラーメン店における「1000円の壁」のような心理的障壁が少なく、原価の上昇を価格に反映しやすいという。人材確保の面でも、バーテンダーが人気職種であることから応募が多いと語る。