なぜ、コンビニや駅で「バー」が増えているの? 参入ハードルをとことん下げた“仕組み”が面白い
お酒の美術館ならではの出店戦略
出店戦略も従来の飲食の出店と一線を画す。繁華街のど真ん中ではなく、駅ナカや路面店、コンビニ併設店など、タッチポイントの多い生活動線上に店舗を展開している。その結果、バーに通う機会が少ないライト層を取り込むことに成功したようだ。 日本酒やワインといった食中酒と比較すると、ウイスキーは単体でも楽しみやすく、厨房設備や調理器具が最小限で済む。これにより、従来の飲食店では難しかった小規模スペースや特殊な立地条件下での出店を可能にした。 「『あらゆる生活シーンにバー文化を』という理念のもと、お酒の美術館はバーの裾野を広げる入門編として展開している。ライト層を増やすという目的からいえば、立地戦略がうまく合致した」(長田氏) 例えば、大阪市内にある商業施設「LINKS UMEDA」の店舗は、元々は同施設の受付だった4坪ほどのスペースをバーに転換した。「給排水は必要だが、おつまみは乾きもの中心のため調理がほぼなく、ガスを使わない。飲食は無理と思われる場所でもお酒の美術館なら営業可能」と、長田氏は強みを語る。 駅ナカへの出店もお酒の美術館の特徴だ。会社帰りに毎日1~2杯飲んで帰る利用客も多く、生活動線上に出店する戦略が成果を上げている。短時間での利用が可能な立地と、気軽に楽しめる価格設定が、新たな飲酒習慣を生み出しているようだ。
ジャパニーズウイスキーがインバウンド客に人気
増加するインバウンド需要も積極的に取り込んでいる。訪日客が多い京都では、時間帯によってインバウンド客が9割を占める店舗もあるという。背景にはジャパニーズウイスキーブームの高まりもあり、京都の店舗では特にラインアップを充実させている。 そのほか、英語表記メニューの用意、SNSを活用した集客戦略を展開している。広告費はほぼ使わずに、SNSなどで十分にインバウンド客を呼び込めていることから、効率的なマーケティングを実践していることがうかがえる。 一方で、急速な店舗拡大に伴い、課題もある。「売り上げがいい店舗もあれば、良くない店舗もある。FC向けの教育部分は今後も力を入れていきたい」(長田氏) 対策として、バーテンダーの研修部隊による既存店舗へのフォローやスキルアップ施策、著名バーテンダーを招いた講演会などを行っているほか、SNS戦略のレクチャーなどにも注力している。 お酒の美術館は、2025年8月期に160店舗の出店を計画しており、2030年に1000店舗の目標を掲げている。1000店舗というのはただの数値的な目標ではなく、同社の理念実現のための指標だという。 「『あらゆる生活シーンにバー文化を』という理念を実現し、バーが日常生活に溶け込んだ文化とするには1000店舗規模の展開が必要不可欠」と、長田氏は事業拡大の本質を語る。今後も生活動線に紐(ひも)づいた出店戦略を継続しつつ、FCの加盟拡大を通じて、バー文化の醸成を目指していくという。 (カワブチカズキ)
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