【日本人のカスハラがひどい理由】おもてなし文化では「5つ星」宿泊施設に勝てない、誤解だらけの日本の接客業
客と店は対等な関係
考えてみれば、カスハラを撲滅することと、「おもてなし」を国際基準に向けて脱皮させていくことは、実は同じことだとも言える。単に頭を下げても、世界のまともな大人は自尊心を「くすぐられる」ことはない。そうではなくて、ニーズにしっかり応えることが大切であり、そのプロフェッショナリズムとスキルに対して、相応の対価が払われ、それに5つ星とか4つ星の評価が追いついてくる。 ハイエンドから庶民的な市場に話を戻すことになるが、考えてみれば、コミュニティに密着した零細な個人営業店では、店と客の間に幸福な相思相愛があった。そこには明らかに対等の関係があり、同時に柔軟な人情味があった。 人と人が対等にリスペクトし合うことで、相互に持続可能な関係性を作っていくというのは、欧米個人主義の専売ではない。長い歴史を持つ日本の庶民文化の中にもそのような強靭な健全性はあったのであり、そう考えると近年の「おもてなし」自画自賛現象はむしろ中身のない一過性のブームであるとも言える。 いずれにしても、あらゆるサービス産業の基本にあるのは、サービスを提供する人と受け取る人は対等な関係だという絶対的な原則である。この鉄の法則を骨の髄まで理解しなくては、やがて、日本の「おもてなし」は、底の浅さを見抜かれて飽きられるであろう。
冷泉彰彦