イエスの隠し子かヒンドゥー教の女神か、謎多きロマの守護聖人「サラ・ラ・カリ」とは
祝祭の日、サラ・ラ・カリに会いにゆく
まるで壁のように両脇にずらりと並ぶキャンドルから放たれる熱が、サント・マリー・ド・ラ・メールにあるサラ・ラ・カリの地下聖堂への入り口を包んでいる。そこに立つ木彫りのサラ像には、訪れた信者たちが持ち込んだ華やかなガウンが、口まで埋まるほど何枚も重ねて着せられている。礼拝者たちは、彼女の頬や心臓を軽くたたき、その顔にキスをし、脚に触れながら、独り言のように祈りをつぶやき、にっこりと微笑んで彼女と一緒に写真に収まる。 「ここは非常にプライベートな空間です。聖人との親密なつながりを感じられるのです」とオレシュキェビッチ・ペラルバ氏は言う。 この場所にゆかりのあるロマの存在が初めて伝えられたのは1438年のことだが、ロマ人による行列が始まったのは意外と遅く、1935年からだ。サント・マリー・ド・ラ・メールという街の名前の由来となったのは、ここに流れ着いたマグダラのマリア、マリア・サロメ、マリア・ヤコベという3人の聖人だが、聖サラの伝説とその姿は今も広く人気を集めている。 白い漆喰塗りの家々が立ち並ぶこの街周辺の乾燥地帯は、野宿をする人々で1週間前から埋め尽くされる。巡礼を締めくくる5月24日と25日には、ロマ人に加えて世界中から観光客も訪れる。聖サラは、伝統にのっとり白馬にまたがったカマルグの牛飼いたちによって海の中へと運ばれ、歌い、笑い声を上げる群衆がその後に続いて波間に足を踏み入れる。 「世界中からロマが集まって祝い、誇りと力を感じ、自分のやりたいことを自由にやっていると実感できる機会は、世界にもそうあるものではありません」とミルガ・クルシェルニツカ氏は言う。「ここでは、われわれが主役なのです」
文=REBECCA TOY/訳=北村京子