教えて印南さん。理屈に縛られず、自由に「感じる読書」のコツは?
印南流・理屈に縛られない“感じる”読書
テレビをだらだら見ている時間を30分削って、そこで本を読むときは、精神的にも余裕ができる。 感覚的にも、指で紙の質感、インクの匂いを感じたり。紙の本のページをめくる行動自体が、マインドフルネスに近い効果があると思うんですよね。 読書には、単に知識を得るだけではなくて、そういう感覚的な効果もきっとあるんだと僕は感じるんです。 ──印南さんの人生に影響を与えた一冊はありますか? いままで抗い続けながら生きてきたので、自分の中にはアグレッシブな側面もあって。たとえば負けないぜ、みたいなことだと『くそったれ少年時代』(チャールズ・ブコウスキー 著、河出書房新社)。 作者のチャールズ ブコウスキーは、怒りを詩にぶつけて、詩人として成功した人。生きるのが下手な人なんですけど、その生き方がよくて、共感できることが大きい。特に20代、なにをやってもうまくいかないってときに、ものすごく勇気づけられたところはあります。 2024年3月に出した著書『抗う練習』(フォレスト出版)では、いまの時代、みんな抗わずに「どうせこうだよ」と諦めすぎてるんじゃないの、もうちょっと抗ってみようぜ、ということを書きました。 すごく好きなのが、源氏鶏太の『明日は日曜日』『家庭の事情』(源氏 鶏太 著、ちくま文庫)。高度成長期の頃に大ヒットした作家で、直木賞を取ったり映画とかドラマになった作品が90作もあったりするのにいまは全然知られてないですよね。その理由は一つで、大衆小説で文学的価値がないとされているから。 でも、すごくよいんですよ。ストーリーは勧善懲悪で、紆余曲折を経て最後はよかったねと丸く収まって、読むとスカッとするんですよ、困ってるサラリーマンが結局勝つっていう展開が多いので共感できるんじゃないかな。 いまの時代って特にギスギスしてるじゃないですか。あと、会社で嫌な上司とか同僚がいて、それっていつの時代も変わらない。だからいまも絶対に共感できるものがあると思いますよね。 あとぜひ読んで欲しいのが『さよなら、ほう、アウル私の水』(奥間 埜乃 著、書肆山田)という詩集です。言葉の使い方が素晴らしいんですよ。「言葉って、こういう表現も可能なのか」って、新鮮な気づきがあります。 詩なんて難しそうと敬遠する人もいるけど、僕は現代美術と同じようなものだと思っていて。理由とか、意味がわからなくても感じればいい。理屈じゃないから。 だって理屈はわからないけど、なにか感じることってありますよね。それでいいと思うんです。