偏差値40から60まで“乱高下”した中学受験の結末
こうして迎えた3日の朝、母親は祈る気持ちで午前入試に送り出した。本当に、どこにも入れないかもしれない、不安な気持ちを抱えたまま、娘を待つ。時間はなかなか進まない。そんなことはない、大丈夫、きっとどこかには行ける。そう自分に言い聞かせるが、不安はなかなか払拭されない。と、唐突にみずほさんのスマホが鳴った。 「矢沢こころさんの保護者さまの携帯ですか?」 「はい」 「こちら、〇〇中学です」 それは、安全校の学校からの電話だった。
「2月1日の補欠合格ですが、繰り上がり合格となりました。入学を希望される場合は手続きを進めてください」 「本当ですか! 本当に合格なんですね! ありがとうございます!」 心を覆っていたどんよりとしたものが、すーっと消えていくのがわかった。試験を終えた娘に合格を告げると、娘も大喜びだった。これでうちの中学受験はめでたく終わりだと思った母親だったが、娘はそうではなかった。合格をもらえたのは一般コース。
「私、6日の特進受験に挑戦したい!」 ここまで何度も不合格の3文字を見てきたはずだが、こころちゃんの心は折れていなかった。 娘の気持ちをくみ取り、母親も応援することに。試験日までの間、過去問を見直す娘の隣で見守り、苦手な問題の解き直しに付き合った。後半になるにつれて倍率も上がるため、合格をもらうのも難しいと言われる中、最終日、こころちゃんは見事、特進コースの合格を手にした。 「受かった!! !」
合格を手に入れたこころちゃんの表情は、晴れ晴れとしたものだった。 ■中学受験を経験して得たこと 「もし誰かに『中学受験どうだった?』と聞かれたら、『やったほうがいいよ』と簡単には答えられないくらい、いろいろと大変なことがありました。今の学校に入学して思ったのは、偏差値表ではわからない学校の良さがあるということです。中受を目指すという人から聞かれたときに言ってあげられるのは、それくらいでしょうかね」
安全校と思っていた学校への入学。本命校や、ちょっと背伸びしたチャレンジ校への合格をして成功とする中学受験業界の価値観から見れば、彼女の受験は失敗と映るかもしれない。だが、最後まで諦めずに粘り強く頑張って得た合格は、本人にとっても家族にとっても、失敗などではない。日々、笑顔で学校に通っているこころちゃんの姿が、それを証明してくれている。 本連載「中学受験のリアル」では、中学受験の体験について、お話しいただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームよりご記入ください。
宮本 さおり :フリーランス記者