【気象予報士対談】天達武史さん&井田寛子さんが語る異常気象の現実「地球が沸騰化している」「気象の常識が完全に変わった」
子供を持つ親として暑い未来は防ぎたい
井田「私はNHK静岡局に入局後、2006年に気象予報士の資格を取得しました。それは静岡で気象災害が多く発生していたことから、人命を守るために災害報道に携わりたいと思ったからです。 その後、2023年の記録的な暑さを日本も世界も体験し、予報士として、小さい子供がいる親として、『いまの気象だけではなく、報道のあり方を変える必要がある』と思ったんです」 井田さんは結婚・出産後、東大大学院総合文化研究科広域科学専攻に入学。2023年に専攻修了した。修士論文のテーマは「気候変動のコミュニケーション論」だ。 ──今年の猛暑も、温暖化が原因でしょうか? 井田「産業革命前(1850年)の平均気温より、気温が1.5℃上がると永久凍土が溶けて、後戻りできなくなるレッドゾーンに入ります。それが、WMO(世界気象機関)による『世界の気温上昇が、今後5年の間に一時的とはいえ1.5℃を超えそうだ』というニュースもあるんです」 天達「これが恒常的に超えるようになると、もうアウト。気象庁によると日本の年平均気温は過去100年あたりで1.35℃上昇。『なんだ100年で1℃上がっただけか』と思うかもしれませんが、もう、やばい。ここ数年は異常で、地球が沸騰化していると実感しています」 井田「気象の常識が完全に変わってきて、皆が豪雨や猛暑、巨大台風、熱中症のリスクにさらされ、具体的に何をどうすればいいのか戸惑っている気がします。それに……日本人には気候変動や自然の脅威にはなすすべがないという無力感や諦めが根底にあるように感じます。 でも、それがアクションを起こさないことにつながるとしたら、この先を生きる子供たちに異常気象の世界を押しつけることになる。そうならないように意識と行動を変えるには、“まだ間に合う”“変えられる”という希望も必要です」 ──講演会とテレビとでは伝え方は違ってきますか? 天達「全国各地に講演で行きますが、気候変動に関心のあるシニアのかたが多く、温暖化の話はしやすいんです。 それに対して、テレビの場合は、打ち合わせのときに異常気象の原因を聞かれて、ぼくが『原因は温暖化です』と言うと、急にスタッフたちに引かれちゃうことがよくあるんです(笑い)。それは、テレビの視聴者は不特定多数で、気候変動に関心の高い人もいれば、興味のない人もいるのと、“温暖化”というワードひと言で片づけちゃうと、それが結論のように感じられてしまう、というのもあるのかなと思います。 それで、環境月間などで“二酸化炭素があるとなぜ暑くなるか”“海面上昇はなぜ起きるのか”などの実験を番組で解説したり、SDGs週間などに絡めて取り上げるようにしています」