新規参入の鉄道会社が始めた「観光列車」に驚いた…!レストラン列車「丹後くろまつ号」に隠されていた「地域の観光ビジネス」成功の秘訣
「こだわり(3)」車窓はまさに日本画の如し?
もうひとつの楽しみは「車窓」だ。1時間ほど走った先にある「奈具海岸」(なぐかいがん)の眺めは素晴らしく、「丹後くろまつ号」は海岸線を一望できる高台で、しばらく停車する。 この海岸は約3kmの花崗岩が続き、白い岩肌と力強く映える松並木が鮮やかなコントラストを描く。かつ、青い海には粟田半島が優美な曲線を描き、天気が良ければ約70kmも離れた福井県・越前海岸まで見渡せるという。 その眺めは上質の日本画のようで、天気や季節などによっても眺めが違うため、何回訪れても飽きない…よく見ると、いつも眺めているはずの運転手さんまで、景色に見入っているではないか。 停車時間中にゆっくり写真を撮るのもよし、景色を眺めながら料理をいただくもよし。なおこの周辺は、クルマで行こうとするとカーブが多い上に、駐車場も少なく、展望台は高台ではない。 また、普通列車はこの箇所を時速60km、3秒弱でビューポイントを通過してしまう…つまり、「奈具海岸を眺めるなら『丹後くろまつ号』ほぼ一択」。こういったプランの作り込みや魅力の発信も、観光列車の同業者が参考とするところだ。
「こだわり(4)」アテンダントは弁当の上げ下げから
そして、乗り物ファンとして秘かに見守りたいのが、「丹後くろまつ号」などの観光列車を通じた「鉄道会社の成長物語」だ。京都丹後鉄道の営業エリアは人口30万人少々と多くはなく、鉄道という移動サービスを展開する上で、観光客の誘致がキーを握る。 かつては一部区間の廃止が真剣に検討されたものの、従来の第3セクター鉄道の枠組みを大きく変えた上で、「施設は実質的に自治体が負担、運行は高速バス事業者のWILLERグループ」という、地方鉄道でよく取られる「上下分離」(設備保有と運航を分ける施策)の中でも、少し変わった枠組みで存続した。いわば、地元自治体は経費を負担した上で、WILLERの民間ノウハウに賭けたのだ。 「丹後くろまつ号」は上下分離前の2014年に運行を開始。アテンダントの方もまずは「弁当の提供」から始まり、「ドリンクサービス」「売店営業」など少しづつスキルアップ。航空会社のキャビンアテンダントを養成するトレーナーの訓練を定期的に受けつつ、レストラン列車でコース料理のフルサービスを行えるようになったのだとか。 笑顔で料理提供をこなすアテンダントの方々を見守りながら、「みんな、少しづつ成長してきたんです」と語る飯島代表の表情は、とても印象的なものだった。 また、「くろまつ号」下車後に西舞鶴駅で降り返しを待っていると…ついさっきまで乗務されていたアテンダントの方が、愛想よく切符の確認やグッズの販売を行っているではないか。声をかけてみたところ、「腰が痛くて観光列車を降りたけど、駅でサービスを行いながら、アテンダントの育成もしている」とのこと。ベテランの「もてなしのノウハウ」が、観光列車・レストラン列車だけでなく、さまざまな部署で活かされているのが垣間見えた。 乗車後に振り返ると、「丹後くろまつ号」には「観光列車」「レストラン列車」の生き残り戦略が隠されていた。絶え間ない地域との交流で魅力を発見し、魅力の発信を妥協なく考えてきたからこそ、10年をかけて「目標の4倍」という顧客を獲得できたのだろう。 観光列車・レストラン列車として見習いたいポイントは、大手旅行会社が主力商品として扱えるコンテンツ力の高さ(普通の観光客にも訴求できる!)。飯島代表や社員の方によると、これらの予約はクラブツーリズム・JTBなどがかなりの比率を占め、そこまで営業をかけずとも販売は順調だという。 また、「観光列車を降りた後の“次の一手”」訴求も、重要なポイントだ。列車を降りたあとも、「次は天橋立、次は伊根の舟屋、ホテルやツアーもいかがですか?」という提案で地域に波及効果を生み、2度、3度と訪れる動機付けにもなる。こういったノウハウは、長らく観光誘客にかかわってきたWILLERならではの強みなのだろう。 働く方の生き生きとした姿にも、驚かされる。「丹後くろまつ号」は理屈抜きで楽しめるだけでなく、地方で観光事業・鉄道事業を営む人々にとっても、ビジネスモデルとしての“学び”もある。地域の人々が一丸となって「おもてなし」に取り組む姿は、参考にしたいものだ。 ただ、地方の鉄道事業は、こういった「地域密着」だけで成立するわけではない――。 つづく後編記事『「赤字額日本一の第三セクター鉄道」が激変…!いま全国のローカル鉄道関係者が「京都丹後鉄道」に注目している「納得の理由」』では、ローカル鉄道のニュースで良く聞くようになったキーワード「上下分離」について解説しつつ、京都丹後鉄道や沿線地域の「ちょっと変わった上下分離」で鉄道・会社・地域がどう変わったかについても分析していこう。
宮武 和多哉(ライター)
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