「日銀化」するFRB でも違うのは……?
【クラリダ副議長】
「2%のインフレ率が実際に少なくとも数か月続き、さらに完全雇用を達成するまで金融当局が利上げを検討することはない」「数か月前の当局者の予測よりもこれまでの景気回復は力強いが、今後は困難な道のりになる。財政政策による支援が役立つ」
【エバンス シカゴ連銀総裁】
「労働市場が完全雇用に達し、インフレ率が持続的に2%を維持するまでFRBは金利をゼロに据え置く」「インフレ率が2%を明確に上回り、2.5%やそれを上回る水準を追い求めて緩和を強化することを恐れていない。さらに緩和が必要ならばそうするだろう」「財政政策のスタンスは重要。小規模企業には融資ではなく支援供与が必要」
【ローゼングレン ボストン連銀総裁】
「新型コロナの流行が予想以上に長期化しており、企業や家計を引き続き支援するため、追加の財政政策が必要」「コロナの流行が3か月なら問題なかったが、かなり長期化しており、より的を絞った支出が明らかに必要だ」「経済がコロナ禍前の水準に戻るにはワクチンが幅広く行き渡ることが必要。それまで金融、財政政策は極めて緩和的に維持される必要がある」
政府に財政支出を求める明示的な言及
このように上記の4氏は、財政政策の必要性について明示的に言及しています。金融緩和ツールをほぼ使い尽くし、金融政策の限界が試されている状況で「開き直り」とも言える姿勢を示し、政府に財政支出拡大を促した形です。景気が減速したら、それは「政府の責任だ」と言わんばかりの主張です。 他方、日銀が政府の財政政策に言及することは極めて稀です。黒田総裁は会見などで記者から質問があった際、常々「政府がお決めになること」として距離を置き、財政政策への言及に慎重な姿勢を固持していますし、他の委員も同様です。例外的に片岡委員は「財政・金融政策のさらなる連携が必要」としていますが、「財政支出を拡大すべき」といった明示的な言及はありません。 ちなみに、9月24日に発表された7月14・15日の日銀金融政策決定会合議事要旨(表紙などを含みPDFで23ページ)で「財政」と検索をかけてヒットするのは「9」。そのうち4つは片岡委員が「財政政策と金融政策の適切かつ緊密な連携が必要不可欠」とした文脈の中で登場するものであり、残りの5つは「財政支出の拡大」とは直接関係しないものでした。 日本、米国ともに金融政策の出尽くし感が漂っているのは同様です。ただしFRBの高官が政府に景気刺激策を促すことで、金融政策の「穴」を埋めようと試みている点は大きく異なります。副作用の大きいマイナス金利導入に突き進む前に、財政政策に注文を付け、金融政策への依存を過度に高める事態を回避することの意義は大きいように思えます。
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