マイナ保険証“賛否”以前の「違法・違憲の問題」とは? “1415人の医師・歯科医師”が国を訴えた「行政訴訟」が28日判決へ
「法律による委任」が“なされていない”
このうち、最も基準が明確なのは「①授権規定の文理」、つまり条文の文言上、「政令」「省令」といった下位規範にその事項について「委任している」と読み取れるか、である。 本件訴訟で、国側は「健康保険法70条1項」を委任の根拠規定だと主張している(以下、健康保険法は「法」と略記)。 しかし、これに対し、原告弁護団の二関辰郎(にのせき たつお)弁護士は、「法70条1項」は「療養担当規則」に対し、「健康保険加入者の資格確認の方法」について「相当程度、個別具体的な委任」をしていないと指摘する。 二関弁護士:「法70条1項は『保険医療機関または保険薬局は、(中略)厚生労働省令で定めることにより、療養の給付を担当しなければならない』と定めている。つまり、あくまでも『療養の給付』について厚生労働省令に委任する規定だ。 『療養の給付』の内容は法63条1項1号~5号が具体的に列挙している。これらはいずれも『医療行為』と解釈するほかはない。被告が主張する『資格確認』がそこに含まれていると解することはできない。 しかも、資格確認については別途、法63条3項が『“療養の給付”を受ける“患者”側の義務』として定めている。 そのような、明らかに趣旨の異なるものを『法70条1項』の委任規定の中に含めるのはおかしい」
健康保険法の「趣旨に反する」との指摘
次に、「③授権法の趣旨・目的及び仕組みとの整合性」については、「健康保険法」という法令全体の趣旨に違反していると指摘した。 すなわち、法1条には「疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする」とある。そして、医療機関に対するオンライン資格確認の義務付けはこの「法の趣旨・目的」に反するという。 二関弁護士:「『療養の給付』について定めた法70条1項は、法1条が定めた『健康保険法の趣旨・目的』を前提としているので、積極的に医療サービスを提供するための規定と解するほかはない。 しかし、療養担当規則でオンライン資格確認の体制を備えることを義務付けると、それに対応できない医療機関が生じて、そもそも医療サービスの提供ができなくなってしまう場合も出てくる。それは法律の趣旨・目的に反する」 二関弁護士はそれに加えて、2019年の健康保険法改正時の国会審議のなかで、政府側が、一律に体制整備を義務付けることを予定していなかったと指摘した。 以下は、2022年4月26日の衆議院の総務委員会において、政府側参考人として出席した厚生労働省大臣官房審議官・榎本健太郎氏の答弁である。少し長くなるが引用する(出典:衆議院総務委員会議事録)。 「実際に体制整備を進めていただいております医療機関等におきましては、やはり医療機関等の種別あるいは規模、対象とする患者さん方の構成、あるいはそれまでのICT化の状況とか職員のITリテラシーなどによっても、実際に要する費用負担、あるいは導入に向けた課題といったものが、状況がかなり異なってございます。」 「医療機関の現場の実情というのはやはり種々ございます。そういった中で、個別の状況を勘案せずに一律に体制整備を義務づけるということについては、なかなか関係者の理解、協力というのは得られにくいのではないかということでございます。」 この答弁から、政府は、積極的な医療サービスの提供が困難となるケースがあることを考慮し、義務付けをするのではなく、あくまでも保険医療機関が任意に採用することを期待していたことがうかがわれる。 二関弁護士は、このことを前提とする限り、2022年に閣議決定で「療養担当規則」の改正を決めてしまったことは、国会での審議内容にも反していると指摘した。 会見ではこれらの他にも、それぞれの論点について、二関弁護士から詳細な説明が行われた。訴訟資料等の詳細については東京保険医協会ウェブサイトで確認できる。