「つみたてNISA」はほったらかしでOK?非課税期間20年の意味をあらためて問う
今年から始まった「つみたてNISA」(積み立て型の少額投資非課税制度)の1月末時点での主要証券・銀行11社における口座数は、約38万に達しました。また、昨年から制度拡充された個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」や既存NISAによる積立契約も合わせると、それら全ての口座数は150万を超えており、若年層の資産形成を後押ししているとの報道もありました。生活者への積立投資の普及に向けた制度の本丸である「つみたてNISA」の出足は良好なムードです。積立投資の概念は認知され始めているようです。何より金融業界全体が金融庁の強い意向への忖度もあってか、積立投資への取り組みを従前より意識して取り組むようになりつつあり、「つみたてNISA」の推奨へ真摯に取り組む銀行も出てきています。
「つみたてNISA」の口座を開設して、急に相場が気になりだした これって正しい反応?
ただし、その先の課題である“積立投資を始めた顧客のその後の投資行動の変化”に対しては、まだ業界も行政当局も問題意識が希薄なようです。大手ネット証券の担当者は、積立投資の件数がうなぎ上りで増えていると鼻息荒く語る一方で、積立を始めた人の多くが2年以内にすべて売却してしまう、中には1年も経たずして積立をやめてしまうケースも少なくないという実態を嘆いています。 投資初めてさんにとって、少額から投資を始められる積立は、その入口は大きく開かれ、入りやすいものの、大多数の人が目先の値動きを追いかけて反応してしまっています。すぐに利益確定したり損切りしたりでは、そもそも積立投資をする合理性がありません。 金融庁が「つみたてNISA」という積立投資でしか参加できないこの制度を立ち上げた理由は、ひとえに長い時間をかけて投資を継続してもらうためです。まとまった資金で一気に投資を始めると、必ず相場の動きが気になって仕方がなくなるものです。まとめて買った翌日から価格が下がればすぐに後悔の念が沸き上がり、さらに下落が続けば怖くなって損失覚悟で売却してしまい、もう投資はこりごりとなるのです。一方、思惑通りに価格が上がったら上がったで、欲張り感情が顕わになり利益を獲りたくてすぐに売ってしまう。買って売ってを相場とにらめっこしながら繰り返していては、買ったり負けたりを続けるだけで将来への資産形成は到底おぼつきません。 お金が育っていくためには長い時間が必要です。日々の相場はデタラメに上下していますが、長期的には経済成長が価格水準を経済の実体価値に導いて、気がついたらお金は相応に育っていく。これが長期資産形成の原理です。その基本原則に忠実な実践をしてもらうためにできた制度が「つみたてNISA」であり、積立投資で参加するそもそもの意義は、日々の相場に翻弄されることなく投資を継続するための術なのです。 ところがやっぱり日々の損益を気にして上がっても下がっても積立をやめてしまう人が多いという実態は、この先「つみたてNISA」を普及させ、参加者の長期的成果へと導くうえで非常に大きな課題であるに違いありません。筆者が経営するセゾン投信は創業来「長期・積立・分散投資」を啓発し、10万人を超える積立投資家が参加しています。腰の据わった真の長期投資家が大勢いらっしゃる一方で、相場が下落すると積立契約を休止したり全額解約してしまう、あるいは上昇が続くと嬉しくなって利益確定へと投資をやめてしまう方が一定数いらっしゃいます。「つみたてNISA」を金融機関に勧められて始めた方達が、日々の相場の値動きに囚われず積立投資を続けてもらうためには、まずは何より「つみたてNISA」が何故20年という非課税期間を設けているのかをしっかり理解することが大切です。