もはや正月用だけじゃない。個食化、オードブル化…意外にも変わりゆく「おせち」が指し示す、日本の現在地
今年の正月、おせちをいただいた人は大勢いるだろう。正月定番のごちそう、おせちの位置づけが、近年変化しているらしい。 動物園のパンダの「油断した姿」にファンが“大注目”しているワケ 総合マーケティングビジネスの富士経済が、2024年4月に発表した重箱おせちの国内市場規模の推移によると、重箱おせち需要は2019年以降増加傾向にあり、2023年は856億円、2024年は原材料高騰の影響か843億円と若干下がってはいるが、2025年の予測も同じ程度。 すっかり市販品が定着した21世紀、新しい動向が生まれやすくなっている。その代表が、一見おせちとはそぐわないように思える1人用だ。正月気分がまだ残る今、改めて1人用おせちが人気になる要因を考えてみたい。
人気の「1人用おせち」とは
1人用おせちは、遅くとも20年前の2005年には誕生していた。『FNNプライムオンライン』2020年10月25日に配信された北海道文化放送の番組の記事「『1人用おせち』の予約倍増…帰省しない“シェアしない”コロナ禍でお正月の姿が変わる?」で、全国のホテルやスーパーに食品を卸す北海道北広島市の「北のシェフ」が、「15年前から販売を始めていた」と紹介されている。 2015年に配信された「飲食店ドットコム」の「健康志向、オードブル化…。おせち料理の最旬トレンド&おせち食材の意味!」には、「ここ数年、夫婦のみの世帯や一人暮らし世帯だけでお正月を過ごすケースが増えており、こうした世帯向けに1~2人用のおせちが人気を呼んでいるようです」とあるので、2010年代初め頃から人気は高まり始めていたようだ。
今、おせちはオードブル?
同記事には、正月に友人と過ごす人たちは、パーティのオードブルとして楽しんでいるとも紹介されている。2021年頃、皿盛りおせちが流行し、同年の『きょうの料理』(NHK)は、1人分ずつ小さな重箱などに詰める「めいめいおせち」をすすめている。1人用の人気は、どうやら多様化の一つと言えそうだ。 「ビジネスインサイダー」2019年12月3日配信記事「“ぼっちおせち”ペットおせち人気急騰、新勢力『オフィスおせち』も」の記事でも、1人用おせちの人気と多様化が確認できる。楽天の「1人前おせち」の同年11月の売り上げは、予約を含めて2018年比で約3割増加。そして見出しの通り、ペット用や年始の出社時に提供するおせちも販売されていることが紹介され、母の日、クリスマスといった「正月に限らず人が集まる際にはおせちの需要がある」と述べている。おせちのパーティフード化は、2015年よりさらに進んでいる。 個人的な話だが、今年初めて少人数用おせちを買ってみた。インターネットで検索すると、賞味期限が12月29日の商品もあり「年内に賞味期限が来るおせちは意味がないのでは?」と思ったが、通年需要があるなら、クリスマスや忘年会で食べる人向け商品だったのかもしれない。また、私が苦手料理を避けて選んだおせちは3つの重で構成されており、そのうち2つが「パテドカンパーニュ」や「紫キャベツのマリネ」などフランス料理が入ったお重だった。 洋風おせちは、高度経済成長期には『主婦の友』(主婦の友社)で提案されており、『きょうの料理』でも長年、定番おせちと共に毎年のように紹介されるアレンジとして定着している。買うおせちで、家庭では作るのが難しいフランス料理などのアレンジが珍しくないのは当然と言える。こうしたおせちは、「オードブルとして食べる」というより、オードブルそのものだ。そして「マメに暮らせますように」と黒豆を煮て、五穀豊穣への願いを込めて田づくりをいただくといった、願いを込めた料理とも言えない。正月用としてこだわる必要性が薄れるのも、当然の流れだろう。