読んでいる本の傾向からわかる「いまの中高生」の「読者としての3大ニーズ」
全国学校図書館協議会「学校読書調査」では毎年、小中高生に「読んだ本」について聞き、上位に入った本を公表している。「学校図書館」2024年11月号に詳細が掲載されているが、人気作品にはどんな傾向があるのか、トレンドの変化はあるのかを見てみよう。 【写真】今の小学生が一か月に読む本の「平均冊数」
小学生女子の恋愛もの児童文庫人気が加速?
筆者の考えでは、小学生に支持される本は 「大人に対する自立心・反発心を満たす自由なキャラクター」 「自分で思考・創造する余地がある」 「笑いや恐怖といった単純な感情を刺激する」 「時事ネタ、流行を盛りこむ」 「動物・科学・世界への興味を満たす」 の5点のうち複数の要素を満たすものだと整理できる(詳しくは『いま、子どもの本が売れる理由』参照)。 2024年の「読んだ本」人気上位を見てもこの考えを変える必要は感じない。 2024年の特徴としては、小学生女子に恋愛ものの児童文庫作品が大量に入っていることだ(上に貼ったトップ5には入っていないが、その下に並んでいる)。 角川つばさ文庫の一ノ瀬三葉『時間割男子』(小5、小6)、集英社みらい文庫のみゆ『海色ダイアリー』(小5、小6)、麻井深雪『霧島くんは普通じゃない』(小6)、宮下恵茉『キミと、いつか』(小6)だ。以前から「売れている」と言われていたが、学校読書調査上では小学生女子は恋愛もの自体がぽつぽつ入るか入らないかくらいだった。人気が増しているのかたまたまなのかは来年以降も見ないとわからないが、4作も入ったのはめずらしい。 小学生女子が好む恋愛ものの特徴は「(本命のいる)逆ハー」、主人公の女子1に対して男子が5人程度の逆ハーレムである点にある。くわえて、主人公女子は『時間割男子』のように学力がないとか多少自信がないキャラクターに設定されていることはあっても、「自分は愛される価値がある人間なのだろうか」「自分を好きになる人間がいるはずがない」といった自意識や自己肯定感の低さは基本的にない。複数いる男子をどちらかといえば「選べる」立場にある。 これが中高生女子になると好む恋愛物語は「溺愛」か「余命」になる。複数の異性ではなく、たったひとりのかけがえないのない理解者との恋愛になり、かつ、主人公は自分に自信がなく、自己肯定感が低いキャラクターや、親や周囲との人間関係がうまくいかずに鬱屈した状態のキャラクターになる。たとえば顎木あくみ『わたしの幸せな結婚』や汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』がそうだ。 思春期初期と真っ只中では、好む恋愛像がだいぶ変わるのである。 中高生男子は今年は『あの花』と小坂流加『余命10年』が入り、例年通り住野よる『君の膵臓をたべたい』が入っているほか、昨年に引きつづきラブコメとして燦々SUN『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』が入った(ただし『アーリャさん』は高3男子の掲載範囲ギリギリの17位に入ったのみ)。もちろん「恋愛要素がある物語」まで含めればもう少し増えるが、それらは恋愛をメインに読んでいるわけではないだろう。男子はそもそも恋愛、ラブコメ需要が少ないが、それでも入っている作品を見ると「余命」と「溺愛」と言っていいだろう。『アーリャさん』は、ハイスペでほかの人間には塩対応な異性が主人公にだけは心を開き、恋愛感情ダダ漏れで尽くしてくれるという点で、男女を入れ替えれば『わた婚』と構造としては似ている。