尹政権の求心力喪失、日米韓の協力体制を揺るがす懸念 トランプ氏就任で対北安保急変も
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が非常戒厳を宣布しながら数時間後に解除を余儀なくされ、政治的求心力を失う中、尹政権が対北朝鮮安全保障の要と位置付けてきた日米韓3カ国協力への影響も避けられない状況となった。北朝鮮がウクライナを侵略するロシアを支援するため大規模派兵に踏み切る中、韓国政局の不安定化が国際的な安保協力にも波及する可能性がある。 【写真】会談に臨む、石破首相、バイデン米大統領、韓国の尹錫悦大統領 韓国内では、日米韓協力の亀裂について、懸念が真っ先に指摘されてきたのが米国の変化だ。尹氏と岸田文雄首相(当時)、バイデン米大統領が昨年8月に米キャンプデービッドで合意した対北安保を巡る協力体制が、トランプ前大統領が来年1月に返り咲くことで揺らぐのではないかとの不安だ。 2018年に史上初の米朝首脳会談に臨み、19年のベトナム・ハノイでの会談で物別れした後も北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との親密さを誇示するトランプ氏だけに、韓国の頭越しに対北交渉を再開するのではとの見方が韓国内で出ている。 トランプ氏は1期目に、金氏との会談で米韓合同軍事演習の中断を表明したり、在韓米軍の駐留経費の大幅負担増を韓国側に迫ったりして、韓国内の安保不安をかき立ててきた経緯がある。 このため、尹政権は米国の政権交代後もキャンプデービッドで合意した3カ国連携に変化はないと内外に強調してきた。その尹政権自体が今回、死に体(レームダック)に陥ることになった。 尹政権は「自由民主主義の価値を共有する国との連帯」を掲げ、ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)に加盟する欧州各国との安保協力の強化も目指してきた。 これに対し、今回の事態で存在感を増すこととなった革新系最大野党「共に民主党」は、対北対話や中国との融和を重視し、対中包囲網と受け止められかねない国際的安保協力に消極的だ。尹政権が進める、北朝鮮の核・ミサイルに備えた日本の自衛隊や米軍との共同訓練も批判してきた。 韓国軍は4日、北朝鮮への警戒に万全を期すと強調したものの、戒厳を建議したとされる金竜顕(キム・ヨンヒョン)国防相の辞任論も高まる中、対北安保は停滞を余儀なくされそうだ。(ソウル 桜井紀雄)