「ママ、体を大事にして」45歳で売春婦になった女性…”親子”で合法風俗で働く「仕方ない事情」
アメリカ50州のうちネバダのみで、経営が法的に認められている売春宿「Ranch」。1971年に合法化され、以後、客にも娼婦にもHIV感染者を一人も出すことなく歴史を刻んできた。今日、同州には19のRANCHが存在する。その一箇所で働いていたのは、45歳の“新人”女性と実の娘だった。アメリカ合衆国において、風俗で働く理由とは何なのか。ノンフィクション作家の林壮一氏が現地取材を行った。 【写真】アメリカ合法風俗で働く親子 45歳の新人女性の名前はローラリー・グレイ。Chicken Ranchで働き始めて4カ月目だった。19歳のときに出産した娘にこの仕事を勧められたという。 結婚相手とは上手くいかず、シングルマザーとして娘を育てることになったローラリーは2008年に銀行のコールセンターの仕事を見付け、転職する。
フルタイム労働でも稼げず、気づけば45歳
「1日におよそ200本の電話を受けるんです。『クレジットカードが使えなくなっている』とか『どうして、こんなに利子が低いんだ』なんていう苦情がほとんど。12年やって、電力会社の管理部に移籍しました。オフィス環境の整備や、組織のサポートに関わる業務でした。8時間労働でしたよ」 シングルマザーとして身を粉にして働き、娘を成長させたことは分かった。ローラリーは口を割らなかったが、ノースキャロライナにおけるレストラン、銀行のコールセンター、電力会社の管理部のギャラを調べると、2024年9月の募集でそれぞれの平均は10.22ドル、15.74ドル、16.74ドルなる数字が挙がる。 劣悪な環境に育った彼女に、逆転の機会は訪れなかったのか。 「月曜から金曜日までフルに働いても、そんなに稼げない。手作りのケーキを売ったりもしましたし、農場の手伝いも続けました。一人で娘を育てているうちに45歳になり、疲労感を覚えたんです。
娘から「売春宿」に誘われる
そんな時、娘に『ママ、体を大事にして』と言われて、この仕事に誘われました。 娘は既に3年、Ranchに勤めていました。彼女が売春宿で働き始めた時、そういうビジネスが合法であるとは知りませんでした。怖かったし、自分には無縁の世界だと感じていたんです。でも、リサーチしてみたら、安全にお金が稼げ、娘が幸せを感じていることが分かりました。犯罪歴や指紋、毎週行われる性病の検査も、私に安心をもたらしました」 そして、2024年5月、Chicken Ranchの一員となる。 「この3月にノースキャロライナを離れ、ラスベガス郊外に移ってきました。フレキシブルにシフトを入れています。今、アメリカ中の物価が上がり、何もかもが高いでしょう。だから、貯金なんて無いですし、収入も十分とは思いません。 人生って短いですよね。正直に告白すると、中年になった今だから、これまでの足跡を振り返り、エンジョイする時間が欲しいと感じたんです。19からずっと大変だったので、安らぐ場所に身を置きたかったんですよね。今、ゆっくり眠れる生活が送れています」 ローラリーは一つ一つ言葉を選び、落ち着いた話し方をした。その口調は、他の娼婦たちには無い、知性を感じた。背筋を伸ばし、インタビュアーの目を決して逸らさずに受け答えする様からは、母としての矜持が伝わってきた。