商談では重いペンを用意すべき? プレゼンを成功に導く「心理学的テクニック」
人前で話す場は誰でも緊張するもの。商談だったりプレゼンテーションだったり成果を求められる場であればなおさらプレッシャーを感じて、普段の半分も話せなかった......ということもあるかもしれません。 部下の信頼を勝ち取る「声かけ」の極意 そんなとき、少しでも場がうまく行くよう事前に準備できることがあります。この方法の利点は、話し手だけでなく、周りのサポートメンバーが環境を整えることができるということです。 ※本記事は矢野香著『世界のトップリーダーが話す1分前までに行っていること』(PHP研究所)の内容を一部抜粋・再編集したものです。
ヒトの先入観を使って好印象を「準備」する
身体感覚は、聞き手の認知情報処理に無意識のうちに影響を及ぼします。つまり相手があなたの話を聞いている際、五感で感じる物理的環境をコントロールすることで話の内容に対する感情や印象、その後の行動を操作することができるのです。 これはアメリカの心理学者ウィリアムズとバーグが提唱した「身体化認知」という心理的作用です。簡単に取り入れやすい5つの方法を紹介をします。 1. 飲み物 温かい飲み物を配る ウィリアムズとバーグは温かいコーヒーと冷たいコーヒーを渡された場合で、渡した人物への印象が異なるのかを調べました。その結果、温かいコーヒーを渡された場合に、その人物を「あたたかい」と評価しやすかったことを報告しました。 これは脳にある島皮質という部位の働きだといわれています。島皮質は身体が暖かさを感じたときと心が暖かさを感じたときの両方で反応するため、身体の温かさと心の温かさを混同するのです。さらに温かいという身体感覚は、その後の行動も温かい方向にむかうよう影響を受けたという実験結果もあります。 話し手に対して「温かい人物、寛大で思いやりがある人物」という印象を持ってもらいたいときは、聞き手に温かいコーヒーやお茶などを配りましょう。 また、ボランティアや募金への協力要請など聞き手に温かい行動を促したい場合にも有効です。相手は喉が渇いていそうだからといって冷たい飲み物を配るばかりが正解ではないということです。 さらに、温度だけでなく味覚も関係します。苦い飲み物を出すと話の内容がまずいことを印象づけることができます。現状の課題や問題点を報告し、それに対する支援要請や支援のための予算増額などを交渉したい場合は、温かくて苦みのある濃いコーヒーを出すとよいかもしれません。 2. 筆記用具 重みのあるペンやバインダーを用意 ヒトは、重いものを持つと相手や話の内容をより重要だと感じやすくなります。 ラグジュアリーホテルのフロントや高級車のディーラー、または大事な商談などで重めのペンを渡された経験はないでしょうか。これは高級感の演出だけでなく、同じ効果を狙っていると考えられます。 人前で話すときも同じです。配布するペンは重めのものを用意しましょう。アンケート用紙とともにクリップペンシルが配布されることがあります。重さという観点ではお勧めしません。軽いクリップ式の鉛筆ではなく、重いボールペンや万年筆を用意すると、話し手をより重要な人物に見せることができます。また会議やプレゼンで資料を配布する場合は、あえて重めのバインダーに挟んでおきます。 前述の温かい飲み物を紙コップやペットボトルではなく、重みのある陶器製のカップで用意すると両方の効果が一度に得られるでしょう。重い配布物で重要性を演出してください。 3. 椅子 柔らかい座り心地の椅子に座らせる 聞き手が座る椅子は、硬い椅子よりも柔らかい素材の椅子の方がお勧めです。「身体化認知」の観点でいうと、硬いものに触れると頑固さが増すと言われているからです。 話す目的が、商品や企画の提案や相手の考えや行動を変えてほしいにもかかわらず硬い椅子に座っていた場合、相手が「一度決めたから変えない」と頑なになる危険性があります。 また、うまくいっていないことを報告しなければならないときも柔らかい椅子に座らせましょう。報告内容について優しく好意的に理解してくれる可能性が高まります。 事前に一度座ってみて、硬さを確認しましょう。デザインはおしゃれだけど座り心地が硬い椅子もあるので要注意です。椅子を変更するのが難しい場合は、座布団やクッションを用意するなどして座面の硬さを調整しましょう。 4. 室温 高めの温度で積極性を伝える 部屋の温度にも気を配ります。 室温が高いと話し手の活動性を高く評価するという実験結果が報告されています。高めの室温にすることで聞き手に対して、自信のある、堂々とした、積極的なイメージを与えることができたのです。 これは聞き手が身体全体で感じた熱量が、話し手に対する印象として「熱い人間」といったような比喩を無意識のうちに結び付けたためと考えられています。 一方で、会場内が適正温度すぎると眠くなってしまう人もいます。眠気対策としては、季節を問わず適正温度よりも少し低めに設定します。 これらをふまえると、室温は一定にせず絶えず調整する気配りが必要だといえそうです。 5. 香り 清潔感のある香りで信頼性をアピール 嗅覚を利用する場合は、清潔感のある香りを嗅ぐと相手への信頼性が高まるという身体化認知を使いましょう。香りによって話の内容が、よりクリーンに伝わります。 例えば自分たちが行っている社会貢献やボランティアの事例を紹介したい場合は、部屋にシトラスなど清潔感のあるアロマをたいておくのもいいでしょう。よりクリーンな行為への関心が高まり、信頼性を印象づけることができます。 ウィリアムズとバーグが提唱した身体化認知は、心理学の中でも比較的新しい領域です。そのため再現性について議論が続いているところではあります。ぜひ自身でいろいろと試し、目的にあったものを活用してみてください。