「発達障害ではなく〝発達特性〟という言葉で少しでも前向きに」自身も発達特性のある息子、重度自閉症の姉をもつ小児科医・西村佑美先生が初の著書に込めた思い
著書にはゆみ先生ならではのポイントが満載
■【1】目安は年齢ではなくコミュニケーション力 著書でこだわったポイントの一つが、冒頭の「コミュニケーションの発達段階チェック表」です。発達のステップは年齢ごとに分けられることが多いのですが、拙著ではコミュニケーション力の段階別にアドバイスを組みました。 例えば、同じ年齢でもよく話す子もいれば、あまり話さない子もいます。その違いを理解し、「この子はゆっくり成長するタイプ、この子は早く伸びるタイプ」と個々のペースに合わせて声かけができるようになっています。 人と比べなくても大丈夫。お子さんの成長に寄り添い、その子に合った関わり方を大切にしていきましょう。 ■【2】PCITで自分を客観的に。何でもフォローしてあげる≠いいお母さん 私自身も大好きなやり方ですが、PCIT(親子相互交流療法)は、親が子どもとどのように関わるか、子育てにおいてどのようなスタンスを取るかに重点を置いたプログラムです。4つのフローチャートに沿って、親も自分のことを客観的に見られるところがすごくいいと思っています。 PCITでも説明されていますが、バウムリンド(アメリカの発達心理学者)の分類として心理学的に知られている「望ましい子育てスタイル」の考え方があまり普及していません。「何でもフォローしてあげて何でもやってあげるのが、いいお母さん」というイメージが世の中に刷り込まれているからです。例えばアニメで、子どもがお醤油をこぼしたらお母さんが文句を言いながらも拭いてあげるようなシーンをよく見ませんか。親世代はそれを見て育ったので、どうしても、母親に子育てを任せきりにする傾向があり、母親自身の個性や感覚に頼ってしまう部分が多いと思います。 確かに、褒めて伸ばす、成功体験を積むというのは自己肯定感を高める上で不可欠です。しかし、子どもは失敗してなんぼ(笑)。最後に何となく本人が頑張った、やりきった達成感が得られれば、失敗したとしてもプラスの経験になります。「失敗して落ち込ませちゃいけない」ということではありません。「何でもフォローしてあげて何でもやってあげるのがいいお母さん」という誤解から一歩離れて自分を客観的に捉えることで、「子どもを伸ばせるちょっとした工夫」に気づくはずです。 ■【3】「喋れないから分かってない」という思い込みはすぐに捨てて 地方での相談会で印象的だったエピソードがあります。会話ができず発達支援に通うある男の子について、普段から反抗的な態度を取ると聞いていました。そこで私は、「あなたは物事を分かっているよね」というスタンスで接すると、彼はすぐに打ち解けてくれたんです。「文字が少し分かる」というのでペンと紙を出すと、ニコニコして自分の書ける文字を書いてくれました。翌日も癇癪がうんと減ったそうです。この時私が親御さんに説明したのは、「彼は分かっています」ということ。そこから親御さんが心の持ちようを変えたことで彼も変わったんですね。 でも私も、ここまで来るのに大いに反省した経験があります。私には3つ上の姉がいます。彼女は重度の自閉症と知的障害を抱えていて、幼い頃から「IQが2歳レベル」と言われていましたが、私にとっては憧れの存在でした。幼心に「姉は全てをわかっているが、話せないだけ」と感じていたので、周囲の大人たちは理解していないと決めつけて接していたのがとても悔しかったのを覚えています。 しかし、大人になるにつれて、私も周りと同じように姉を見るようになってしまいました。 医師になり、姉に似た自閉症の子が診察に来た時のことです。筆談や文字盤を使ってコミュニケーションを取る練習を始めているとお母さんから聞き、実際に見てみると、本当にできるんですね。ショックでした。なんで私は姉が分からないと決めつけてしまったのだろう。検査結果がその子の全てを表現したわけではないのに、喋れない=分からないという無意識のバイアスがかかっていたのです。本当に気をつけなければならないと深く心に刻みました。 それ以来、姉のように重い障害があったとしても、喋れなくても、IQが低いと診断されたとしても、まずは分かっているという前提で接していくようになりました。そうすると、先の男の子のように、周りが驚くほど変わっていくんです。喋れなくても理解できていることを、この本と一緒にあわせて広めたいですね。 ■【4】すべての始まりは子どもを信じることから。アイコンタクトを基盤に 親子関係でいちばん大切なのは、親が子どもを信じることです。そこからスタートすると、子どもの行動を観察できる余裕が出てきて、なぜその行動をとるのか理由が分かるようになります。子どもが癇癪を起こした時に、「何してんの!!」ではなく、「これがやりたかったことなのね」と親が言ってくれると、それまでギャーギャー泣いても「ママが分かってくれた」と落ち着いてくるんです。 そのときに欠かせないのがアイコンタクトです。私も目を合わせるとこんなにも情報交換が早いんだと驚くことばかりですが、非言語コミュニケーションの重要性は、この10年で急速に研究が進み、多くのエビデンスが示されています。 実は、子どもと目を合わせるのがいちばん多いのは、怒るときではないでしょうか。そうするとますます皆さんますますコミュニケーションが途絶えてしまう。だからかえって注意したいとき、怒りたいときはあえて目を見ない、注目しないというペアレントトレーニングもあるほど、アイコンタクトは重要です。 ■【5】親が見てくれているだけで子どもは嬉しい 子どもにとって、親の注目を浴びたいというのは、すごく大きなモチベーションになります。子どもは、親に見てもらってるだけで褒められている気分になるので、注目してあげることは、子どもを伸ばすいちばんのテクニックなんです。「靴履いてるね」「ご飯食べてるね」「お着替えしてるね」。お子さんの行動をよく見てあげて、それを声にそのまま出すだけで構いません。これなら、褒めなくてはと気負わなくてもよいので気が楽になりませんか。子どもは見てもらっているのが嬉しくて不思議と素直になり、言うことを聞こうとしてくれるんですよね。 ただ、自閉症の特性が強い子は、注目することが苦手なので、なかなか目が合いにくいんです。その場合は、何か欲しいものをあげるときなど、ニコッと笑ってからものを渡したり、そのまま注目してあげるだけで目を合わせる習慣がついていきます。子どもは、自分にとって楽しいことを提供してくれると嬉しいですから。未就学児であれば、それまで全然目が合わなかった子も、約2週間でこちらを見るようになります。そうするとなぜか言葉も出てくるんですね。 アイコンタクトや表情の観察、そして目に見えない信頼関係は、コミュニケーションの基盤。今後、発達支援においても非言語コミュニケーションを伸ばすことが主流になっていくと考えられています。まずは子どもを信じ、こういった非言語的なコミュニケーションを大切にすることから始めましょう。言葉のレッスンはそれからでも十分です。