妥協点はあるか? アルビレックス新潟に存在する脆さ。ボール保持が孕むジレンマをどう解決するか【戦術分析コラム】
2022シーズンの明治安田J2リーグを制したアルビレックス新潟は、J1・10位と昇格1年目の昨季に上々の成績を残したが、今季は16位と苦戦を強いられている。新潟の生命線であり武器ともいえるボール保持における制度設計をひも解いた前編に続き、今回は結果に結びつけるために必要な要素にフォーカスを当てる。(文:らいかーると)
●「他の選手の起用を考えられないレベルのプレー」(谷口海斗) 左サイドハーフで起用されることが増えている谷口は、ウイング仕草として圧倒的な存在感となっている。ドリブルで相手のラインを下げたり、サイドで空中戦の的となったり、前線の選手の降りる動きに連携して裏に飛び出したりと、他の選手の起用が考えられないレベルのプレーを左サイドで連発している。 谷口の代わりに前線で存在感を増している選手は長倉幹樹だ。第3のセントラルハーフとしてビルドアップの出口となること、インサイドハーフ化してサイドのサポートを行うこと、ライン間で前を向き果敢に仕掛けること、最前線でクロスに合わせること、そして、労を惜しまずに相手にプレッシングをかけ続けることができることと獅子奮迅の活躍を見せている。なぜ最初からスタメンでなかったのか?というレベルだが、シーズンを過ごす過程のなかで発見した答えを積み重ねていくことで、選手の成長とチームの結果が手に入る可能性が増していくのではないだろうか。 ボール保持による試合支配はスペインサッカーから輸入された思想だと解釈している。ボール保持、ボール非保持の状況をシンプルに攻撃と守備に区別するのではなく、ボールを保持して試合の主導権を握り、ボール保持によって相手の攻撃の機会を削ることは、まさに発想の転換であった。アルビレックス新潟のボール保持もこの思想がベースになっているため、ボール保持率のわりにシュートが少ないという指摘は的を少し外れている。 ●「保持」と「非保持」の妥協点 ゴール前へのクロスや、裏抜けした選手へのボールの供給は、相手ゴールへの仕掛けに繋がり、仕掛けの結果は成功するか、失敗するかである。何を当たり前のことをと言うかもしれないが、ゴールを目指した結果、相手ボールになることは、ボールを保持するチームからすると一大事となる。ボールが相手に渡ってしまう可能性が高くなるからだ。 よって、僕たちのボールを返せ!と言わんばかりに、ハイプレッシングを仕掛けたり、ボールを失った瞬間にボールを奪い返すプレッシングを即実行したりすることで、自分たちがボールを保持する時間を増やす道を選ぶことが、ボール保持を基調とするチーム作りで大切なこととなっている。アルビレックス新潟もボールを保持する時間を増やすために、ボールを果敢に奪いに行くのだが、ここに脆さが存在していた。 前線の4枚がプレッシングに出ていくことが多いため、ボールを奪いきれないと、セントラルハーフコンビが縦横無尽にカバーリングに奔走することになってしまう。カンテとカンテなら2人でカバーリングを無理なく実行できるかもしれないが、アルビレックス新潟のセントラルハーフはどちらかといえばボールプレーヤーであり、カバーリングを嬉々として行うタイプではない。 横浜F・マリノスや川崎フロンターレが苦戦しているように、ハイラインのチームはどうしてもセンターバックがさらされる展開が試合の中で訪れてしまう。そのときにセンターバックやキーパーが理不尽なプレーができるかどうかは試されているが、チアゴ・マルティンスや高丘陽平を失った横浜F・マリノスは苦労が続き、怪我がちのジェジエウと海外に旅立った谷口の代わりを川崎フロンターレは見つけたようで見つけられていない。 ハイボールに強いトーマス・デンは守備の要として計算できるかもしれないが、さらされた状態で耐えきれるほどの守備力がアルビレックス新潟には残念ながらない。となれば、1秒でも早くボールを奪い切るのではなく、相手がボールを保持する時間を受け入れながら、最終ラインがさらされることなく、ボールを保持する場面では延々と持ち倒す道を選べるかどうかにかかっている。 ●結果に関わるアルビレックス新潟のジレンマ ただし、ボール保持を優先すると、仕掛けるプレーがどうしても減ってしまうため、相手ボールになっても別に構いませんというメンタルと実績が必要になる。実際に、試合を重ねるにつれて、サイドハーフはボールを奪うよりも守るを優先するようになっているが、このあたりのジレンマをどのように解決するか、そもそもそんなジレンマは存在しないものとして振る舞うかで、アルビレックス新潟の結果は変わってくるのではないだろうか。 ボールを保持するサッカーの評価は実に難しい。試合を通じて言えば、決定機、決定機に繋がりそうな数でカウントすればいいだろう。一方でボールを保持することで相手の攻撃機会を削ることを優先することも当然にあるだろうし、その姿勢が消極的に映ることも事実だろう。その姿勢が別に間違っていないと周りが評価することは大切なのではないだろうか。その他ではボール循環が相手のブロックの外だけでなく、外がだめなら中、中がだめなら外と相手と会話できているかが鍵となってくるのではないだろうか。 右サイドハーフ大募集。どうせなら宮本英治や奥村仁を右サイドで起用して、大外担当から内側に移動してもらうほうがハマるかもしれないくらいに右サイドの人選に困っている印象だ。ルヴァンカップでも石山大空、稲村隼翔が出番を得ているように、ボールプレーヤーを集めていることはアルビレックス新潟のスタイルゆえだろう。このスタイルから離れすぎない程度にプレッシングを整備しながら、ゴールに迫り続けることができる道になることを切に願っている。 (文:らいかーると)
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