鼻にスプレーするだけの「フルミスト」か注射か…小児科医が解説「インフルエンザワクチン」2タイプ徹底比較
今シーズンは、従来通りの注射をする「インフルエンザHAワクチン」だけでなく、鼻に噴射する「経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(フルミスト)」が日本でも使えるようになった。効果や費用はどう違うのか。小児科医の森戸やすみさんが解説する――。 【図表をみる】死亡数・死亡率(人口10万人対) ■インフルエンザワクチンの季節 秋は、インフルエンザワクチンの接種時期。例年10月から接種が始まり、11月に接種する人がもっとも多いそうです。ただし、先シーズンは小規模ながら夏からインフルエンザウイルスの流行が続き、すでに感染したからという理由でワクチンを接種しなかった人も多かったとか。その結果、インフルエンザA型にかかった人が、同じシーズン中にB型にかかるということがありました。 「インフルエンザは大した病気ではない」「めったにかからない」と考えている人もいるかもしれません。でも、普通の風邪とは違い、インフルエンザは急激な高熱、頭痛や関節痛、筋肉痛、咳と鼻水などの症状がつらい感染症です。そればかりでなく、肺炎や脳症を起こすことも。インフルエンザ脳症は10歳以下の子に多く、死亡率が約30%、後遺症が残る確率も25%と大変怖い病気です。2023年の「人口動態統計月報年計」の「年齢別の死因」によると、5~9歳ではインフルエンザが4位でした(※1)。 とりわけ、子どもが集団生活を送る保育園や幼稚園、学校では、感染症をうつしあいやすく、さらに家庭へと持ち帰って感染が広がることもあります。日本では1960年代から1994年までインフルエンザワクチンの集団接種を行っていました。この間、高齢者に多い超過死亡は少なく、集団接種中止後に増加したのです(※2)。ですから、できたらインフルエンザワクチンを接種しておいたほうがいいでしょう。 ※1 厚生労働省 人口動態統計月報年計(2023)「年齢別の死因」 ※2 「ウイルス」第52巻 第1号,pp47-53 2002,菅谷憲夫「8.インフルエンザ 最近の臨床の進歩」 ■インフルエンザHAワクチンの効果 また従来型のインフルエンザワクチン(一般名「インフルエンザHAワクチン」)は、流行する型を予想して作るため、それが外れたら効果がないと言う人もいますが、じつはそうではありません。アメリカで10シーズン、70万人以上を分析した研究によると、どのシーズンもワクチンを受けた高齢者のほうが受けなかった高齢者よりも、入院のリスクも死亡率も低かったのです(※3)。 インフルエンザHAワクチンは、生後6カ月から接種可能な不活化ワクチンです。生後6カ月~3歳未満は、1回0.25mlのワクチンを2回接種します。3歳~13歳未満は1回0.5mlのワクチンを2回接種。毎年10~11月頃に1回目の接種をし、約4週間(少なくとも2週間)の間隔を開けて、2回目を接種するのがいいでしょう。少なくとも年内に1回接種しておけば、感染と重症化を防ぐことができます。 13歳以上は大人と同様に、1回0.5mlのワクチンの1回接種します。WHO(世界保健機関)とCDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、9歳以上なら1回接種が適切だとしています(※4)。 ※3 New England Journal of Medicine “Effectiveness of Influenza Vaccine in the Community-Dwelling Elderly” ※4 プレジデントオンライン「じつは9歳以上なら1回だけの接種でも十分効果がある…『子どものインフルエンザワクチン』の新常識」