大統領選トランプ圧勝の「知られざる」理由、ハリス“民主党”の「根本的欠陥」とは
最後まで大接戦が予想された2024年大統領選は、予想外のトランプ圧勝で終わった。7激戦州すべてを制し、全米50州とDCのうち32州、選挙人総数537人の過半数を大きく超える312人を獲得した(図1)。なお本連載ではトランプ優勢を予想していた。得票率はほぼ50%に達し、2004年以来「過半数信任」を得る初の共和党大統領となる。支持基盤に加えて民主支持層も広く浸食し、4年前より得票数260万票を伸ばした。議会上院下院も共和党が過半数を制する「トリプルレッド」を達成し、保守派優勢の最高裁とともに、「トランプ2.0」の強力な政治基盤が整った。米国が彼を選んだ理由とは? 【詳細な図や写真】図2:ギャラップ社「米国経済信頼感指数 Economic Confidence Index」年間平均値の推移。世論調査で、「現在の国の経済状況」および「国の経済見通し」の2つの質問への回答(肯定値と否定値の差)を合成した指数(出典:ギャラップ社)
トランプ支持が拡大した6つの層
出口調査によれば、トランプ支持は、従来の民主党支持基盤も含めて、性別や人種民族・所得・学歴・居住地の垣根を越えて広範に拡大した。 特に増えたのは、(1)景況感や家計が悪化した層、(2)男性(従来の白人に加えてラテン系、黒人、若者)、(3)白人非大卒の男女と大卒男性、(4)郊外の穏健な中流層、(5)従来の地方に加えて、中規模都市やマイノリティーが多く住むシカゴ・ニューヨークなどのリベラルな大都市、(6)初めて投票(投票しない“隠れ保守”の活性化)だった。
民主党に大逆風、ファンダメンタルズがもたらした不利
彼らを動かした第1の勝因は、選挙環境を表す政治経済指標いわゆる「ファンダメンタルズ」が、決定的にバイデン民主党に不利だったことだ。 ギャラップ社の調査によると、今回有権者が投票で最も重視する「経済問題」について、「経済信頼感指数」は2021年にインフレが上昇し始めて以来マイナスが続き、選挙直前はマイナス26、この水準で政権与党が勝つことはほとんどない(図2)。また経済問題を扱う能力でも、世論は一貫して、トランプの方がハリスより優れていると見ていた。 経済不安とインフレの重圧に加えて、不法移民と治安、ウクライナ・中東の戦争、米中対立と米国の覇権低下などを背景に、「国の現状に満足」は3割以下だ。これらの不満を反映した「バイデン大統領支持率」は低迷し、選挙直前には再選がほぼ不可能な41%だった。「政党支持率」も、92年以降続いた民主党優位が消え、経済運営で定評ある共和党が伸びて両党が並んだ。 この「負の遺産」を引き継いだハリスは、バイデン副大統領として現政権を擁護し、他方で生活不安と国への不満を抱える国民に、バイデンとの違いを示すという矛盾した課題を抱えた。 しかし3カ月という短期決戦では難しい。10月末NYタイムズ調査で、バイデンよりも庶民の生活支援を強調したポピュリスト的なハリス経済対策を「個人的に助かる」と見る人は、トランプと同等に並んだが、バイデン政権下で政府財政は悪化しているのに財源も実現性も不明だ。 また民主支持層内でも異論のある移民対策、環境対策とエネルギー、製造業支援について、現政権を批判したり擁護したり、立場が一貫しない。激戦州の白人労働者やマイノリティー、若い高学歴男性などの民主支持層、中間所得層のトランプシフトは、ハリスの政策立場に確信が持てないからだった。