ハマグリに近い旨味で最高507歳まで生きる……スシローが「超長生きする無名の貝」を新メニューに加えた理由
国産魚の不漁、輸入魚の高騰が続き、水産物の安定した仕入れが難しくなっている。その中で回転寿司チェーン最大手のスシローではこの秋、無名の貝を新メニューに採用した。時事通信社水産部の川本大吾部長は「カナダ沖で獲れるアイスランドガイという二枚貝が寿司ネタになった。原産国でも食材として名前を知っている人は少ない。そうした魚種が大手チェーンで寿司ネタになるのは非常に珍しい」という――。 【画像】アイスランドガイ(右)とむき身(左) ■スシローに登場した海外産の貝の正体 本マグロやイクラ、エビ、カニなど、人気の寿司ネタは数多いが、フード&ライフカンパニーズ(F&LC)が運営する回転寿司チェーン最大手のスシローでは今秋、他店にはない海外産の貝をグランドメニューとして握りのネタに起用。順調な売れ行きで、寿司業界でもちょっとした話題となっている。 この貝とは、カナダ産のアイスランドガイという二枚貝。名前にアイスランドと付いているが、同国沖では商業的な漁獲は行われておらず、「カナダ東部のセーブル島の沖合で、ホッキガイ漁などと合わせて操業が行われている」と、同国漁業に詳しい水産会社グルメグローバル社(東京都中央区築地)のアレックス社長は言う。 アイスランドガイの見た目は、ホンビノスガイや黒ハマグリなどと少し似ており、丸みを帯びて貝の殻は黒っぽい。ホンビノスなどよりも深い「潮下帯」と呼ばれる水域に生息しているため、大型漁船から海底の砂地に圧力をかけて貝を浮かせながら漁獲する。 カナダでは、海底を一掃するように漁獲するトロール(底引き網)漁が、タラなど底魚資源への悪影響を懸念して規制されているため、海洋環境にやさしい漁法が推奨されているようだ。
■原産国でも名前まで知っている人はほとんどいない 現地でアイスランドガイは主に缶詰などとして流通しており、ホッキガイなどと一緒にクラムチャウダーの材料に使われることが多い。このほか、米国・ロードアイランド州などでは、アイスランドガイを白ワイン蒸しにするほか、ほかの具材とともに細かく刻んでパン粉焼きにする「Stuffies」(スタッフィーズ)なる料理が一般的という。 いずれにせよ、アイスランドガイは食材のひとつであるものの「カナダでも貝の一種という程度の認識で、貝の名前を知らずにクラムチャウダーを食べている人がほとんどではないか」とアレックス社長。それなら当然、日本でアイスランドガイの存在を知る人は限られているだろう。 実はこの貝、驚くほどすごい一面がある。信じられないくらい長生きする貝なのだ。かつて英国の大学の研究チームが、アイスランド沖で捕獲されたアイスランドガイの年齢分析を行ったところ、推定507歳という個体を発見。動物の中では最高齢ではないかとみられている。アイスランドガイすべてが数百年生きるわけではないようだが、記録的な長寿貝として話題性は大いにある。しかもそれが食用となればなおさらだ。 だが、この発見から10年以上経過した今でも、食用としてのアイスランドガイの知名度は極めて低い。そうした中で、この貝の潜在的な魅力を引き出そうと動いたのが、カナダの漁業会社・クリアウォーター社と、前出のグルメグローバル社だった。 ■寿司ネタにするには漁船上での速やかな加工処理が必要 両社が、アイスランドガイを日本の寿司ネタに格上げしようと動きだしたのは4~5年前。きっかけは「セーブル島沖で比較的たくさん獲れるものの、いまひとつ有効利用されていないため、クラムチャウダーだけではもったいない。なんとか寿司ネタにできないものか、という思いが強かった」(アレックス社長)という。 ただ、寿司ネタへの道のりは易しくはなかった。アレックス社長もクリアウォーター社の担当者も、当初は「もう無理。諦めよう」と断念したことが幾度となくあったという。そのわけは、帰港するまでに漁船上でかなりの作業が必要だったからだ。 アレックス社長によれば、「アイスランドガイを獲っても、漁船からそのまま陸揚げしたのでは、次第に鮮度が落ちてくる。寿司ネタにするには、漁船上である程度の段階まで加工処理しなければならなかった」と説明する。 漁船上で何をすべきなのか。簡単にいうと、殻を取ってむき身にし、異物を除去し、内臓を除去して洗浄してから軽く湯通しして、凍結処理する。漁獲後、この工程を速やかにこなさなければ、安全・安心な寿司ネタとして、アイスランドガイを遠い日本で提供できない。 こうした工程をクリアし、アイスランドガイの寿司ネタとしてのデビューに見通しがたったのは今年の春。日本のほか、中国やEU(欧州連合)などにも輸出可能という。