大統領選トランプ圧勝の「知られざる」理由、ハリス“民主党”の「根本的欠陥」とは
「報われない感」を変える物語を紡いだトランプ
環境は整い、キャラはそろった。しかし最も大事なのは、この“トランプ劇場”の脚本だった。人でもモノでも、売れるものには「物語」がある。政策など具体的な“性能”も大事だが、この選択にどのような個人的、歴史的“意味”があるのか。投票は、どのような人生、どのような「米国の物語」に共感し、一体感を持って参加するかという選択でもある。 文化史家のR.スロトキンは、トランプの「物語」が、米国の伝統的神話の1つである「失われた大義」(南北戦争の南軍以来の「米国文明を取り戻す」)のテーマに合致するという。保守派は数十年かけて、この米国の「脚本」を文化戦略として展開してきた。しかし多くの有権者にとって、それはエリート支配や学歴格差の固定化など「欧州化」する米国を懸念し、米国の社会的流動性とアメリカンドリームを守ることであり、文化的急進派の行き過ぎを正し、自分たちの中心に戻すという意味の「米国本来のあるべき姿」の復権を意味した。 トランプは、民主支持層も含めて、人種民族や年齢、性別の垣根を越え、全米の中間層や納税者、文化的主流を自負する人々に広がる疎外感、「報われない感」を、ワシントン政治の大きな変化に変える物語を紡いだ。2008年選挙で、人々はオバマの「変化」に賭けたが、何も変わらない。エリートが決定権を握り、弱者を救うという“上から目線”の欺瞞(ぎまん)に満ちた民主党を見限って、今回は、政界常識や政党、既成勢力と闘うホンモノのアウトサイダー、トランプに賭けたのだ。
出口調査比較に見るトランプ旋風の背景
人々の疎外感はさまざまだ。第1に、少数派に転落する「白人」の喪失感。第2に、不法移民と同一視され、誇りを傷つけられた「定着移民の市民」。第3に「文化的主流派」、すなわちLGBTQや“セクハラ犠牲者”など特定マイノリティーを重視する一方で、既存のラテン系・黒人層を後回しにする民主党の「意識高い系(woke)」文化、あるいはキリスト教的価値観の軽視に反発する人々。第4に、最も重要なのは、「学歴」と「女性中心・男性周辺」という格差の構造化だった(図3)。低学歴で、しかも男性やマイノリティーは、現行の政治に“周辺化”され、懸命に努力しても這(は)い上がれない。勤労と努力が報われず、声が届かない疎外感は、納税者一般も同じだった。それこそが、史上最悪水準の政治不信、米国不信の理由である。 注1:紫色の部分は、各層における「トランプ得票率(赤)」と「民主党候補得票率(青)」の重なりを示す。その上にある赤ないし青の部分が、当該選挙におけるトランプないし民主党候補の得票率の優位分(パーセントポイント)を表す。3回の選挙の得票率の推移・支持増減度は、変化の傾きでわかる。 白人は、大卒か非大卒かで、支持傾向がまったく異なる。ハリス支持が多い「女性」層は、「大卒」はハリス、「非大卒」はトランプ支持へと二極化が進む。「男性」は、「非大卒」は圧倒的にトランプ支持で変わらないが、「大卒」は、「女性」がハリス支持を強めたのに対し、「男性」はトランプ支持の方が上回る。 ラテン系や黒人、アジア系などの有色人種は、総体的には、学歴にかかわらず民主党支持が多い。しかし、2016-2024年の間に、民主党候補支持が激減し、トランプ支持が増加している。とくに「非大卒」の伸びは、総体的に大きい(変化の傾きに注目)。 出口調査は、これらの不満の受け皿となり、「システムの大きな変化」の担い手として、トランプが選ばれたことを示している。有権者が望むのは、個々の政策変更という以上に、「敬意の再分配」(NYタイムズの人気保守派コラムニスト、D.ブルックス)である。我々こそ「リアル・アメリカ」だ、と。