会社への不満や離職対策に効く人事データの活用法 タムラ製作所の心理的安全性のつくり方
心理的安全性の高いチームの管理職にヒアリング
――心理的安全性のサーベイと360度調査の結果は、どのように用いているのでしょうか。 浅井:最初に私たちが明らかにしたかったのは、心理的安全性の高いチームを率いる管理職の行動特性でした。そこで心理的安全性サーベイのスコアの高いチーム上位10%と下位10%を抽出し、管理職の360度調査で有意差が生じている項目を調べました。 その結果、「共感・傾聴力」「表現力」「組織への働きかけ」「ビジョン」「判断力」「柔軟性」の六つのカテゴリーについて、行動特性に有意差が見られました。 ――スコアに有意差があるだけで、行動の違いまでわかるものでしょうか。 佐藤:そこが定量調査の限界で、具体的な行動の違いは定性調査が必要でした。私たちは参考になるモデルを管理職に提示するため、社内の良い事例を集めることにしました。 心理的安全性の高いチームの管理職でも、6カテゴリーのすべてのスコアが高いとは限りません。また職種など業務の特性によっても違いはあると思います。そこで、他と比べて高い領域について、具体的に何をしているのかをインタビュー調査したのです。 浅井:インタビュー調査の結果、特定のカテゴリーで高い評価を得ている管理職は、チームの心理的安全性によい影響を与える行動をとっていることが明らかになりました。 たとえばビジョンのスコアが高かった管理職は、毎週金曜の午後に定例ミーティングを行っていました。そこでは業務の進捗ではなく、チームの存在意義や、自分たちが取り組む仕事の価値、中長期的視点に立って将来どうありたいかなどを対話する場を持っているそうです。日々の業務に追われ、ともすると近視眼的になりがちなところを補正し、働く意義を見いだす機会を設けていたのです。 ――心理的安全性の高いチームは、管理職が意図的に行動しているのですね。 浅井:その通りです。このような事例は、「心理的安全性をどう高めたらわからない」という管理職に向けて、社内の「働きがい推進のためのポータルサイト」で紹介しています。 360度評価について、フィードバックの対象となる管理職や専門職は250人ほどいますが、それぞれの弱みとなっているポイントを絞って、一人ひとりにアドバイスしています。注目しているのは、平均スコアより低い行動特性と、自己評価と他者評価に一定以上の乖離(かいり)のある特性です。該当する特性がチームの心理的安全性にどのような影響を与えるかを示し、どう変わるべきかを具体的に示すようにしています。 佐藤:心理的安全性サーベイの結果は、チームに公開しています。チームの空気はリーダーの振る舞いに影響を受けやすいですが、メンバー一人ひとりの意識によっても変わってきます。 回答者レベルで見ると、社歴が長く地位の高い人ほど、チームの心理的安全性を高く感じている傾向があります。しかし、管理職やベテラン社員が「うちのチームは心理的安全性が高い」と感じていても、社歴の浅い人や若手も同じ感覚とは限りません。こうしたギャップを示せるのも、データ活用のよさだと考えます。