会社への不満や離職対策に効く人事データの活用法 タムラ製作所の心理的安全性のつくり方
組織サーベイと360度評価の組み合わせで管理職の行動を定量的に分析
――なぜ、働きがい改革に取り組むことになったのでしょうか。 浅井:2019年に経営トップが変わったことが、契機となりました。現社長の浅田(昌弘氏)は着任時、保守的な組織風土に危機感をおぼえていました。社員が自ら世の中の変化に対応し、チャレンジを続けるようになるには、健全な野心のもと、上意下達だけではなく「下意上達」も含めて、年齢や立場を超えた相互理解を図りながら、高みをめざす組織づくりが必要だと社員に伝えたのです。 そうした流れから、2021年には「働きがい改革&業務改革プロジェクト」を発足。翌年には傘下に「心理的安全性浸透チーム」を設けることになりました。 佐藤:心理的安全性を重視することにしたのは、先に述べた「若手社員の離職」も関係しています。離職者アンケートでは、会社の施策や制度を理由に辞めた社員は少数で、多くはマネジメントを含む組織に対する不満が影響していることが分かりました。何かしらの理由で働きがいが低下することで、離職へと至っていたのです。 心理的安全性は、働きがいに大きく影響します。会社、チームで働くことの価値を見いだすためには、能力を発揮する機会があることが重要です。それを実現するには建設的な批判も含めて、役職や社歴を超えて遠慮なく話し合える関係性と、自己開示できる寛容な雰囲気が必要です。 当社では、仕事の成果を評価基準として昇進や昇給を決める「成果主義」を基本方針としており、優秀なプレーヤーを管理職に登用する傾向が見受けられました。成果主義は良い方向に機能していますが、優秀なプレーヤーが優秀な管理職になるとは限りません。自分のやり方を部下に押しつけたり、説明やケアが足りなかったりすると、部下が能力を発揮しきれないこともあります。管理職研修でマネジメント手法を学んだとしても、周りを生かす実践はなかなか難しいものです。 浅井:プロジェクトが立ち上がる以前から、離職者が目立つなど心理的安全性が高くないと思われるチームには、管理職に対して人事からヒアリングを行うことがありました。ただ、客観的事実がない中での説明は難しく、データを用いたアプローチが不可欠でした。 ――心理的安全性向上に向けて、どのようなデータを活用したのですか。 浅井:まず私たちは、いろいろな文献をあたる中で、心理的安全性の高いチームは、生産性が向上すること、組織の心理的安全性は、管理職の行動に影響を受けやすいことに注目しました。たとえば役職者が隣にいるだけで、個人の心理的安全性は下がるという研究結果もあります。 岸:私は昨春、新卒で入社しました。同期とは、上司とのコミュニケーションが難しいと話すことがあります。自分から声をかけるのがはばかられたり、上司が気を遣っているのが伝わってきたりと、お互いがオープンになりきれていないのです。 浅井:そこで各チームの心理的安全性と、管理職に対する印象をデータで示す必要があると考え、全社には心理的安全性のサーベイ、管理職には360度調査を導入。組織の心理的安全性と、その組織の管理職者の行動特性にはどのような差異があるのかという点で分析を試みました。 佐藤:社内を見渡せば、心理的安全性が高く業績もいいチームもあれば、真逆のチームもあります。双方の違いを明らかにするには、チームの状態を客観的につかむと同時に、管理職の行動を定量的に分析する必要がありました。