会社への不満や離職対策に効く人事データの活用法 タムラ製作所の心理的安全性のつくり方
電子部品、電子化学材料などの製造・販売を手掛けるタムラ製作所では、経営トップの交代を機に、働きがい改革に着手しました。取り組みのコアとなっているのは、組織の心理的安全性の向上です。その実現のために、管理職者行動特性に注目。心理的安全性サーベイと360度調査の結果を活用して得られたデータを活用し、管理職がマネジメント手法をブラッシュアップできるように支援しています。現場へのアプローチは、「勘と経験」で乗りきっていた頃からどのように変化したのでしょうか。取り組みの推進役である、人事総務本部人事統括部の浅井遥さん、佐藤奏さん、岸ジャネール直美さんにうかがいました。
データであぶりだされた組織の現状勘と経験の人事から脱却
――人事データの活用を始めたきっかけを教えてください。 浅井:きっかけは外部交流でした。社外の人事関係者と情報を交換するうち、徐々に人事領域におけるデータ活用に興味を持つようになったんです。 当時の私は給与管理を担っていたため、システムの利用は当たり前でした。一方で社内の“人”のことについては、勘と経験を頼りに運営することが多かったと思います。社内にはそれなりの人数がいますから、人力だけですべての社員や組織をカバーできるはずがありません。データを取り入れることで、取りこぼしの生じている領域にも手を入れられるのではないかと考えたのです。 当社では1年に1回、社員に向けてキャリアに関するアンケートを実施しています。その中では「現在どのような業務を行っているのか」「将来どのようなキャリアを描いているのか」「ライフプランで配慮が必要な事」などを聞いており、「今のやりがい」に近しい設問もあります。分析して驚いたのは、社員が辞めたくなるのは「やりがいがない」からではなかったことです。 まず分かったのは、最初からやりがいを感じていない社員は、意外と組織に残り続けること。むしろ、以前はやりがいを感じていたが、感じられなくなったとき、つまりやりがいのギャップが生じると、離職意向を示すことが明らかになりました。これは大きな発見でした。 佐藤:コロナ禍前、役員や人事の上層部は、若手社員の離職が多いことを課題としていましたが、本当にそうなのか。立証するため、10年分の退職者の属性を分析してみることにしました。 分析といっても、立派なものではありません。基本的にはExcelを使って集計し、できないところは、人事システムに残っているデータを確認しながら考察を進めていきました。 ――データを調べて、どのようなことが見えてきましたか。 佐藤:一つ目は、キャリア採用者の離職率は入社3年未満が最も高く、新卒入社者の離職率は入社4年目と6年目に高くなる傾向があること。二つ目は、新卒入社の社員よりも、キャリア採用の若手社員の離職のほうが組織に与えるダメージが大きいことでした。一口に採用と言っても、新卒採用とキャリア採用では一人当たりに注ぎこむコストが違ってきます。戦力になりつつある若手や即戦力であるキャリア採用者が、魅力に感じる組織づくりに取り組む必要があると考えました。 浅井:それぞれの組織についてデータから現状を把握することで、これまで把握できていなかった部分があぶりだされました。たとえば部署ごとに年齢構成や退職率などの現状を把握し、将来の年齢構成をシミュレーションすると、5年間でどれくらいの社員が退職を迎えそうか、大局的な観点で組織を見ることができます。こうした結果から理論新卒採用人数を算出する事で、計画的な採用につながる情報をつかむことができました。 根拠に基づき、複数の事象をつないで考察できるので、とても興味深かったですね。 佐藤:データを使うことで、こんなに組織が立体的に見えるようになるのかと非常に驚きました。「なんとなく」ではなく数字の裏付けがあるので、説得力があります。データを使わない手はないと、浅井も私も強く感じていたところ、全社で働きがい改革を進めることになり、データ活用に力を入れ始めました。