今治東、全国高校サッカー初出場初勝利の裏に「岡ちゃんメソッド」
チームカラーのピンク色で染められた今治名物のタオルを手に握り締めながら、元日本代表監督の岡田武史氏(63)は味の素フィールド西が丘のバックスタンドで声援を送っていた。 眼鏡越しに送る視線の先では、第98回全国高校サッカー選手権大会で初出場を果たしている、今治東中等教育学校(愛媛)の選手たちが躍動している。初戦となった2日の山形中央(山形)との2回戦を2-0で制し、堂々の初勝利を見届けた試合後には思わず相好を崩した。 「初戦なので硬かったかな。まだまだ本来のサッカーではなかったし、もうちょっとできるんじゃないかと期待していますけど、結果は大事なので。勝ってよかったですよね」 応援団がバックスタンドの一角をもピンク色に染めた今治東を、なぜ岡田氏は後押ししていたのか。答えは来シーズンからのJ3昇格を決めているFC今治を運営する、株式会社今治.夢スポーツの代表取締役会長を岡田氏が務めていることと密接に関係している。 1998年のフランス大会、2010年の南アフリカ大会と2度のワールドカップで日本代表を率い、横浜F・マリノスの指揮を執った2003、2004シーズンにはJ1を連覇。指導者として輝かしい実績を残した岡田氏が突如として経営者に転じ、日本サッカー界を驚かせたのは2014年11月だった。 きっかけは名門FCバルセロナのメソッド部長を務めていた、ジョアン・ビラ氏との出会いにある。昨年末に出版された約300ページからなる著書『岡田メソッド』(英治出版刊)の「まえがき」には、岡田氏に転身を決意させたビラ氏のこんな言葉が記されている。 「スペインには、プレーモデルという、サッカーの型のようなものがある。その型を、選手が16歳になるまでに身につけさせる。その後は、選手を自由にさせるんだ。日本には、型がないのか?」
まずは自由にサッカーを楽しませ、高校生になる年齢からチーム戦術を教えていく。従来の日本の指導とは180度異なるアプローチで日本サッカー界を変えるには、クラブに雇われる指導者よりもクラブを経営する側の方が、既存のJクラブではない方が斬新な挑戦ができるのではないか。 こうした思いが頭をもたげていたからこそ、四国リーグに所属していたFC今治のオーナーを務めていた早稲田大学時代の先輩から話をもらったときに転身を決めた。同時にトップチームや下部組織だけでなく、独自のメソッドを愛媛県今治市という地域全体へ浸透させていこうと考えた。 「少年団から中学校、高校と要望されるところへコーチを派遣して、一緒に今治モデルを指導してきたなかで、ピラミッドを作ろうということでやってきた。そして、KPI(重要業績評価指標)のひとつとして、全国大会に今治の高校が出場することを僕たちが勝手に決めていました」 これまでに南宇和と松山工業を2度ずつ、全国選手権の舞台へ導いた谷謙吾監督が2012年から指導する、中高一貫の今治東もFC今治の巡回指導を受けてきた。2017年の選手権県予選、昨夏のインターハイ県予選と2度涙を飲んだ決勝の壁を乗り越え、初めての選手権切符をついにもぎ取った。 「谷先生の力で作ってこられたチームなので。僕たちがやっているみたいに勘違いされると、谷先生にちょっと申し訳ないんですけど」 岡田氏はこう断りを入れたうえで、今治市内の高校としても初めて全国選手権へ出場し、2年生エース高瀬太聖が前後半に1点ずつをマークしての快勝に再び表情を綻ばせた。 「これもひとつの成果だと、我々も勝手に思っているんですけど。FC今治のユースが強くなったといっても全国から人が今治に来るのではなく、ガンバやサンフレッチェのユースへ行くけど、全国選手権で今治の高校が強くなったら、今治の高校へ行こうか、という若者が集まってくる可能性がある。すごくインパクトがあることだと思っています」