二拠点生活で自己肯定感も爆上がり! 築75年”超ビンテージマンション”に低予算投資したら「予期せぬ人生の変化」が起きて大正解だった 小説家・高殿円
『トッカン』シリーズ(早川書房)などの代表作がある小説家の高殿円さん。最近、伊豆(静岡県)の築75年のリゾートマンションの1室を98万円で購入し、2拠点生活をスタートしました。この体験を綴った同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』が大きな話題になっています。 そんな高殿さんが手にしたのは、温泉だけではありません。2拠点生活がもたらしたメリットや、超ビンテージマンション購入に踏み切った理由についてエッセイを寄稿いただきました。
漠然と「変わりたい」と思ったら? 「2拠点生活」という選択
あなたは「変わりたい」と思ったことはないだろうか。自分のこんなところを変えたい、体形を変えたい、人間関係を変えたい、お金の使い方を、生き方を変えたい……。それには住まいを変えるのが手っ取り早いのではないかと最近私は思う。 とはいえ今住んでいる場所だってやっと手に入れた我が家だ。そう簡単に手放すことなんてできない。しかし、やっぱりちょっと変わりたい、成長したい……。そんなふうに人生後半を楽しく生きるために、私は新しい巣、すなわち2拠点目をつくり始めた。 実際、2拠点生活は多くの人にとって興味ある事ではないだろうか。ワーケーションは定着しつつあるし、もともと海外では週末の家を郊外に持つことは珍しくない。日本人の生活も、コロナ禍を経てずいぶん変わった。デジタルの恩恵を感じながらも、改めて人と会えることって楽しいと感じることも多くなったように思う。
場所を変えてみるだけで、人の行動や発言も変化していく
2拠点生活を始めて2年目、自分でも予期しなかった変化があった。それは、別の場所に住んでいるときだけ「まるで人が変わったように明るくなる」という現象だ。 新しい場所に住むのだから、なるべく周りとうまくやっていきたいという気負いがそうさせたのか、それともまったく知らない土地ゆえ持ち前のリサーチ欲に火がついたのか。ともあれ私は、伊豆の家でいつもにこにこしている。 近くの魚屋さんでは積極的にお店の人と話し、名前も知らない魚を買って帰る。たとえば今日網にかかった不運な魚。金目鯛やフグといった高級魚ではない、かたちもぶさいくで食べられる身も少なさそうな、200円とか100円とかで、すみっこでついで売りされている魚。 「これ、どうやって食べたらいいですか?」と聞きながらコミュニケーションをとる。私はその魚屋さんが本当に好きなのだけれど、なぜか伊豆にいるときは、神戸にいるときより好きとポジティブが体の奥深くからあふれ出る。相手を褒めたり、自分の気持ちを伝えたりすることに余計なストッパーがかからない。するとどうだろう。返ってくる気持ちや言葉もまた気持ちいいくらいに愛であふれるのだ。 「あらおねえさん、やっと来たね」 「うん、やっと来れたよ。ここが恋しかったよ」 人間はこんなにキラキラしてあったかい会話を何度も何度も交わせる、ということをこの歳にして知ったのは驚きだった。本心130パーセントはちゃんと相手に伝わって「あらあら、じゃあとっておきのを出してきましょうね」とお店のお母さんが言う。 SNSでもニュースのコメント欄でもとにかくギスギスした言葉が並んでいる昨今、人と人とのつきあいに疲れたり、給料の上がらなさを悲観したり、終わらない戦争のニュースに絶望したりしている人は多い。 なのに場所を変えるだけで私はポジティブだ。道行く人にあいさつをし、住人とも積極的に知り合える。組合の理事会にだって顔を出す。なんなんだろうこれ。どうしてこんなことが起こるんだろう。