彬子女王殿下が、京都の街で「好きな通り」は、寺町通
ついふらりふらりとお店に吸い込まれて
寺町通をさらに下がる。この丸太町通から御池通までの区間が私は一番好きかもしれない。お茶屋さんや紙屋さん、お花屋さんやパン屋さんなど、京都の人たちが普段着で立ち寄るようなお店が並んでいる。 ついふらりふらりとお店に吸い込まれては店内を一周。買う予定のなかった品物を買って、でも何だかほくほくしながらお店を後にすることがしばしばである。背伸びをしなくてよい、その空気感は、せわしない毎日の中に、ほっと楽に呼吸ができる時間を取り戻させてくれるのである。 散歩の途中、お気に入りの喫茶店に入って、珈琲を飲みながら道行く人をぼんやり眺めるのが私にとっては最高の贅沢。ときにはゆっくり読みたい本を持っていき、2時間3時間と腰を落ち着けてしまうこともある。 御池通を過ぎると、寺町通はアーケードの商店街になる。ここに入ると一気ににぎやかになり、明るい電飾のお店が増える。若い人が訪れるファッションのお店や雑貨屋さん、ゲームセンターなどもあれば、仏具屋さん、画廊や古書店、伝統的な組紐や袱紗のお店などもある。なんだか雑然として少しせわしない。 でもたくさんの人たちがからからと笑いながら行きかう、ちょっとキッチュで明るい雰囲気が、いつのまにやら癖になる。アーケード街が終わると、また寺町通は雰囲気をがらりと変える。秋葉原のような小規模の電気街になるのである。大型量販店の台頭で姿を消しつつあるが、小売りの電気店もなかなかに味わいがあるものだ。 聖から俗へ。寺町通をひとことで表現するのにこんなに適した言葉はないかもしれない。お寺ばかりの北から電気街の南へ。歩いているうちに刻一刻と変わっていくその空気感。でもそこには一貫して、よそ行きでない京都人の素顔が見えるのである。
彬子女王