「想定外の事態」に強い組織をつくるために必要なこととは
◇リスクなく言いたいことを言える「心理的安全性」が不可欠 想定外の事態に対応できるだけのコミュニケーションを取るために、必要なものはなんでしょうか。 大きなカギを握るのが、近年、マネジメントの分野で注目されている「心理的安全性」です。提唱者である組織行動学者のエイミー・エドモンドソン博士によれば、人々がリスクを抱えることなく、言いたいことを言える組織のことを、心理的安全性がある状態だとしています。 もともと1990年代からあった概念ですが、とくに注目されたのが、2012年にGoogleが調査を行った「プロジェクトアリストテレス」からです。心理的安全性が創造性豊かな組織づくりや活性化に重要だという結果が出たことで、ビジネスの現場に広まるようになりました。それが2020年代になり、日本の場合、言いたいことが言えなかったのが組織不祥事の原因ではないかといった議論でも、心理的安全性という言葉が使われるようになりました。 最近では、不正、不祥事、事故などを起こした企業の報告書に、「心理的安全性が足りなかった」、あるいは今後の提言として「心理的安全性を担保していくべきだ」といった表現も使われています。いずれにしても、少しおかしいと感じたことやミスをしてしまったことなどを、隠さず言える環境が重要だということです。 では、組織やチームに心理的安全性を根付かせるためには、どうすべきでしょうか。 組織における「権威勾配」が大きいと、つまり上司やリーダーとメンバーとの間に格差があればあるほど、メンバーは思うように発言しづらくなります。それを防ぐには、「私についてこい」といような昭和型のリーダーシップではなく、メンバーの気づきを引き出せる謙虚なリーダーシップが大切です。話してもらいやすい態度を取るためには、ときにはコミュニケーショントレーニングも必要でしょう。 とはいえ、いくらリーダー側が促したとしても、メンバー側がやはり言えない、あるいは言うだけのスキルを持っていない場合もあります。相手を尊重しつつ自分の言いたいことをきちんと相手に言うアサーションの力も、訓練次第で高めることが可能です。自分の話し方に自信がないのであれば、そのスキルを磨くことも欠かせません。 困ったときに助けを求められないのは、心理的安全性が足りない組織です。「どうしてこうなるまで言ってくれなかったの」といった事態が起こるのは、通常の業務としても問題です。業務過多のなかさらに指示がきて断れず、トラブルが発生するケースは往々にしてあります。 リーダー側とメンバー側、両者が歩み寄って、心理的安全性を担保・向上に努め、駄目なことは駄目、できないことはできないと言い合える環境をつくることも、有事への備えだと言えるでしょう。