「想定外の事態」に強い組織をつくるために必要なこととは
◇社会の変化に応じて「組織文化」を疑い、変えていく必要がある 何をもって有事だと捉えるかという共通認識の根本には、その集団独自の組織文化があります。組織文化として最も根深いのは、組織のなかの「当たり前」です。 組織に属する人の行動様式や考え方は、その組織文化によって制御されがちです。今の自分たちの組織文化がどういうものなのか、まずは確認したうえで、場合によっては変えていく必要があるでしょう。 たとえば納期を最優先するためには、品質をおろそかにしてしまうのも致し方ない、といった考えが当たり前になっている組織にいると、「それはおかしい」という感覚が麻痺しているおそれもあります。まずそこに気づくことから始め、気づいたことをうまく組織的に展開する必要がある。職場の心理的安全性はもちろん、場合によってはコンプライアンスの窓口や内部通報の保護制度なども組織的につくる必要があります。 気づくためには、アンテナを張って、外の環境を見ることが欠かせません。ステークホルダーである、お客様や投資家、場合によっては新入社員などに意見を仰ぐのも有効です。中途入社のメンバーの声も、「今までのやり方と違う」といったネガティブなものではなく、「このやり方は今の社会からずれている」「もっと安全な取り組み方がある」など、ときには大きな気づきをもたらすことがあります。 異なる文化の人たちと対話することも重要です。その意味でも、ダイバーシティはとても大切で、同じ組織文化に染まってきた人たち、すなわち同質性の中では発見できない、安全・セキュリティ上の盲点や、クリエイティビティの可能性などが見つかることにもつながります。 異なる意見に対し、「これがうちのやり方だから」と否定するのか、うまくそれを取り入れる仕組みをつくるのかで、その後の組織のあり方も違ってきます。社会が変わり続けるものである以上、その一員である組織も社会の状況変化を受け止められるよう変わっていかなければなりません。過去の歴史を語るのも大事ですが、人間も組織も、そして世界も日々変わっていることをまずは認識して、それに柔軟に対応しようとする力は重要です。 また、安全安心というのは、スイッチを押し間違えないように気をつけるといった単純な話ではありません。想像力を持つことで、「この状態だと、こうなるおそれがある」といった予想を瞬時に行い、トラブルや事故を未然に防げることがあります。一方で、想像力には限界があるということも常に意識しておくべきでしょう。有限の想像力をもって、わかる範囲で把握し、アクションに移る。セキュリティに向けた最大限の努力はしつつ、我々は神ではないので、「万全はない」というスタンスで物事を見ていくことが被害を抑えることにつながります。 考えるべき想定外な事象の種類は増え、範囲は広がっています。世界規模の感染症や甚大な自然災害など、単一の組織に限った問題ではありません。サイバー攻撃など国家レベルの課題も出ています。想定外の事態に対応するためには、われわれの想定を組織間のネットワークやステークホルダーとの関係、社会情勢や環境との関係にまで拡げて、見直さなければならない時代に来ているのではないでしょうか。
中西 晶(明治大学 経営学部 教授)