「想定外の事態」に強い組織をつくるために必要なこととは
中西 晶(明治大学 経営学部 教授) 2024年1月1日の能登半島地震や、翌2日の羽田空港地上衝突事故、製薬会社の健康被害問題など、予想もつかなかった出来事が多発しています。想定外の事態に直面したときでも被害を出さない、あるいは最小限に抑えるために必要なものは何でしょうか。対応できる組織をつくるにはどうすべきかを考えます。
◇何を有事と捉えるかどうかの共通認識を組織内で持つこと 「想定外の事態」を前にしたとき、どう対応すべきか。想定外の事態に強い組織とはどのようなものかを研究する高信頼性組織論によると、基本となるのは、組織内で何を有事と捉えるかどうかの共通認識を持つことです。 たとえば火事の場合、いま起こっているのはボヤだからたいしたことはないと放っておくのか、それとも大火事になるおそれがあるから早く消そうと対処するのか。判断の違いにより、結果はまったく異なってきます。まず火事だと認識し、消すという一連の対応ができるかどうか。ある意味、当たり前のことをちゃんとやりましょう、という言い方になるかもしれません。しかし、最近のニュースを見ていると、組織としての共通認識の部分からできていないケースも少なくありません。 何かが起こった際、いちメンバーが「危ない」と訴えても伝わらない組織は危険です。もちろん原因を究明することや、責任の所在を明らかにすることも必要にはなるでしょうが、「火を起こしたのは自分じゃない」「誰が火をつけたんだ」といった議論が先立ち、消火作業にすぐに移れないようでは問題があります。「ひとりひとりの個人の声から、共通認識をつくり、すぐ行動できる組織」をどう築いていくかが重要になってきます。 日常と想定外の事態、平時と有事はつながっています。つまり有事と平時は切り分けられるものではなく、気づかないままに平時は有事に変わっていく場合があるのです。日頃から小さなミスやささいな異常、工場などの現場なら“ヒヤリハット”に目配りし、「ちょっとおかしいな」という認識を共有して問題を潰していけるのが、想定外に対応できる組織です。 対応するためには、想定外のときに守るべき方針を立てておくべきでしょう。たとえば、セキュリティを優先するため、時にはサービスを止めなければならないなど、ビジネスとしての損失も被るケースがあります。そういった際に、マネジメント層が「君が危ないと言うなら止めよう」と言える、現場との関係性は大事です。日常の段階で相互の信頼関係を築き、実施できるようにするためには、コミュニケーションが欠かせません。日頃からコミュニケーションの取れていない組織が、突然、何かに対応しようとしたところで、協力して動くことは難しいでしょう。