藤原ヒロシが「アウェーなカンファレンス」で語った情報の価値
隠されているから深掘りたくなる
講演後に席をあらためて藤原に話を聞くと、「奥行き」に関してより踏み込んだ、かつ実践的な向き合い方が語られた。 彼が手がけるクリエイティブの中核には「奥行き」があるが、それを大々的に見せることはしない。プレゼンでも、販売するアイテムでも、最初にすべてを明かすのではなく、隠された要素を少しずつ発見していくような設計を意識している。そこではタイミングも鍵を握る。 「その奥行きに気づいてもらうのは後からでもいい。むしろ、時間差がある方が面白い場合もあります。時計が壊れて裏蓋をあけたらメッセージが書いてあったとか、壊れなかったら見ることがなかった情報もいいと思います」。 『007』の写真集を編んだタリン・サイモンも「実はこの本にはこんな狙いがあって」とは話していなかっただろう。奥行きは隠されているからこそ、深掘りたくなるものなのだ。 ■未来を向くばかりでなく あるモノ・コトを起点に、縦に横に広がっていく藤原の視線は、どちらかというと未来よりも過去に向いている。「宇宙のはじまりや人類の起源など、過去のことがいまより鮮明になったら面白いと思う。未来に期待するよりも、進化した現代の技術をつかって過去のことを知りたい。少しでも現実味があるほうが僕は好きですね」と話す。 それは、FUTURE VISION SUMMITという“未来”を掲げるイベントとは相反するようであるが、ナポレオン戦争や『007』の裏話も、単なる過去のエピソードにおさまることなく、来場者に確かに新鮮な気づきを与えていた。 「過去を理解しないと、現在の文化や情報の価値も見えてこない」と藤原。未来を急ぐのではなく、過去の深みから新たな価値を生み出す。近いところでいえば、温故知新という使い古された言葉もあるが、この視点は、先へ先へと目を向けがちな現代社会に、再発見する重要性を示している。
Forbes JAPAN 編集部