藤原ヒロシが「アウェーなカンファレンス」で語った情報の価値
ロスチャイルド家の逸話
ここから藤原は、鳩が情報の象徴として果たした歴史的な役割へと話をめた。ナポレオン戦争の時代、イギリスの銀行家ネイサン・ロスチャイルドが鳩を活用し、ナポレオンが敗北したという情報をいち早く知り、そのネタを元に巧妙な投資を行い、巨額の富を得たという逸話だ。 「ロスチャイルド家が情報の優位性を活用して歴史を動かした話は、情報の力が時代を超えて変わらないことを示しています。当時の伝書鳩が、現代のインターネットに匹敵する重要な役割を果たしていたのです」 都市伝説のくだらなさから始まり、現代の情報社会の不安、そして歴史を変えた情報の力へとつながるこの展開は、情報の奥行きや重要性を語る上で非常に説得力のあるストーリーとなった。 ■『007』と「BIRDS OF THE WEST INDIES」 情報の奥行きを語る上で、次に例に挙げたのが映画『007』の主人公ジェームズ・ボンドと、「BIRDS OF THE WEST INDIES」というタイトルの2冊の本の意外なつながりだった。 藤原は、子どもの頃から『007』シリーズに夢中になり、特にボンドが使うガジェットや腕時計に強い魅力を感じていた。そして、大人になってボンドがつけていたロレックスを購入。ブラックフェイスのサブマリーナーであるという情報を頼りに秋葉原で見つけた「当時23万円だった」時計は、今、4000万円を超える価格で取り引きされているという。これも情報の力だろうか? ボンドを巡る話は、藤原がお気に入りだという写真家、タリン・サイモンの写真集「BIRDS OF THE WEST INDIES」に続く。この写真集は『007』シリーズに登場するガジェットや小道具、ボンドガールを美しく記録した作品だが、この写真集には特別な背景がある。 「調べてみると、同じ『BIRDS OF THE WEST INDIES』というタイトルで、1950年代に出版された鳥類図鑑がありました。その著者の名前がジェームズ・ボンドです」 『007』の原作者であり、バードウォッチャーでもあったイアン・フレミングは、ジャマイカで執筆していた際、この図鑑にインスピレーションを得て鳥類学者の名前をスパイの主人公に採用したのだ。 「タリン・サイモンの写真集の装丁は、オリジナルの『BIRDS OF THE WEST INDIES』と全く同じものです。007シリーズをテーマにした写真集に、007シリーズ制作のバックグラウンドをオーバーラップさせています。 作り上げられた世界的なスパイと実在する鳥類学者の意外なつながり。それを暗に表現してみせたタリン・サイモンの試み。映画と科学、文学が交差し、僕はとても面白いなと感じました。写真集をただ美しいアート本と見ることもできますが、何だろうと思う好奇心が奥行きを広げます」