中谷潤人は日本人王者が占めるバンタム級でも格が違う 強すぎる王者はマービン・ハグラーを彷彿とさせる
挑戦者のボクシングを把握した中谷は、3ラウンドからアゴへの右アッパーを使用し始める。LAキャンプで、繰り返し体に染み込ませたものだ。 「近い距離で戦うには、とにかく相手を知らねばなりません。時間をかけて観察してから接近しました。また、カウンターのタイミングを計り、いつでも合わせられる状態を作りました。狙っていましたよ。 前で相手を止めて距離を縮めようと、4ラウンドは前傾にしてチットパッタナの懐に入ろう、消耗させよう、しっかり削っていこうと考えました。5ラウンドはもっと近づきましたね。右だけじゃなく、左のアッパーもアゴに打ちました。ロープを背負って誘いもしました。来てくれたほうが、相手を崩せますから」 【常に「勉強する」ことで成長】 そして、第6ラウンド1分30秒、左ショートの打ち下ろしが挑戦者を直撃する。このパンチは、昨年5月のWBOスーパーフライ級王座決定戦の最終ラウンドに、アンドリュー・モロニーを屠った一発と同じ種のものだ。芸術とも表現できるノックアウトシーンは、米『RING』誌が選ぶ2023年度「KO of The Year」に選ばれている。この「ちょい打ち」も、キャンプ中のスパーリングで反復していた。 「『出す』と決めて、体に覚えさせていました。倒せなかったですが、チットパッタナには効いていましたね」 中谷は練習で積み重ねたパンチで試合を構成し、結果を出した。これまでに経験した世界タイトルマッチ8戦のうち、KO勝利は7度。また、3連続のノックアウトである。それでも中谷は、決して現状に満足せず、先を見据える。快勝しながらも反省点を口にした。 「今回、接近戦を挑んだ分、被弾する場面もありました。粗さが出たなと。ただ、中に入らなければ、倒せていなかったなとも感じます。接近戦でもパンチをもらわないことが、今後の課題ですね。やはり、練習以上のことは本番で出せません。同時に、努力は嘘をつかないこともあらためて学習しました」 中谷は「勉強する」「学ぶ」という言葉を使う。リングは、生き方を見せる場所でもある。 「もっと多くの人に自分のボクシングを見せたい。僕の存在を知ってほしい。そのためにも、一試合でも多く、本場で戦いたいです。中1で世界チャンピオンになることを夢見たのですが、日本タイトルを獲って現実的になりました。その後、世界タイトルを3階級制覇しましたが、まだまだ飢えていますよ。 世界チャンピオンって、よりみなさんの目に留まりますよね。だから目標にしていましたが、山登りなら5合目に届くかどうかでしょう。新しい目標も生まれてきます」 パウンド・フォー・パウンドのKINGを目指すと公言する中谷だが、一方で、「一歩一歩、自分を築き上げる作業を楽しんでいる」とも話した。