中谷潤人は日本人王者が占めるバンタム級でも格が違う 強すぎる王者はマービン・ハグラーを彷彿とさせる
【伝説の王者と共通する強さ】 WBC指名挑戦者を下せば、次戦でWBA王者、井上拓真との統一戦が決まりつつあった。しかし、中谷vsチットパッタナ戦の前日に井上が敗れたことで、同プランは白紙となった。 ご存知のように、現在53.52キログラムのバンタム級は、WBA新チャンピオンの堤聖也、IBFの西田凌佑、WBOの武居由樹と、主要4団体の王者すべてを日本人が占めている。だが、同じチャンピオンでありながら、まるで格が違う。中谷はほかの3名を凌駕している。現時点でバンタム級のベルトをすべて束ねて当然の実力者だ。 統一戦を熱望する中谷だが、すんなりと決まるだろうか。事実、去年にはWBOスーパーフライ級1位として挑むはずだった当時の王者、井岡一翔に"避けられた"経緯がある。 他団体のチャンピオンたちがハートを見せればいいが、強すぎるがゆえに、対戦相手やビッグマッチに恵まれない。そんな中谷の現状は、統一ミドル級タイトルを12度防衛した故"マーベラス"マービン・ハグラーを彷彿とさせる。 なかなかチャンスを得られないハグラーを、かつてヘビー級王座に就き、モハメド・アリと3度の激闘を繰り広げたジョー・フレジャーはこんな言葉で慰めた。 「おまえには3つの難点がある。黒人であること、サウスポーであること、そして強すぎることだ」 その後、ハグラーは険しい状況を乗り越え、自らの時代を築いた。 2004年12月に筆者がインタビューした折、ハグラーは語った。 「人間には各々の生き方がある。『己が何者であるか』を把捉しなければいけない。そして、自分に適した道、夢、目標を達成するために何が必要なのかを解することが肝心だ。歩み方はそれぞれ異なるが、ゴールに向かって努力するという作業は同じじゃないかな。人は自らが望んだことに対して、決意を持たなきゃならない。それから、自分を犠牲にすることも大事だね。『自らを捧げる』行為が夢の実現に繋がるんだ。大抵の人は、この犠牲の意味がわからないけれど」 中谷潤人は、自らをボクシングに捧げることのできる男だ。ハグラー並のアーティストとなる可能性を十分に秘めている。そして、メンタルの強さもハグラークラスだ。近々、飛躍となる大舞台が用意されることを切に願う。
林壮一●取材・文 text by Soichi Hayashi Sr.