中谷潤人は日本人王者が占めるバンタム級でも格が違う 強すぎる王者はマービン・ハグラーを彷彿とさせる
キャンプでは自分が前に出るラウンドと、相手に攻めさせる3分間を分け、4人のスパーリングパートナー全員の嫌がり方を観察した。 「僕は足を使うことが得意ですし、強みでもあります。が、相手に攻撃させることでバランスを崩させ、倒しにいくパターンもありますよね。そういうシチュエーションも想定しています」 そう言って、試合に備えた。 【合計236ラウンドのスパーリングで徹底したサウスポー対策】 サウスポーの中谷にとって、同じスタンスの相手と拳を交えるのは2019年6月1日以来のことだった。 「日本チャンピオン時代、急に対戦相手が変わってフィリピンの選手とやったんですよ。1ラウンドでKOしましたが、サウスポー対策はゼロでした。新人王トーナメントに出ていた頃は、サウスポーとの連戦がありましたね。当時はまだボクシングがよくわかっていなかったので、やりづらさを覚えました。でも、特に苦手意識は持っていません。僕の記憶だと、サウスポーとの対戦は4人目ですね」 中谷は、チットパッタナ戦に向けた合計236ラウンドのスパーリングで、徹底的に左利きへの対策を練った。たとえば、右ジャブを多く打たれている時に右回りをすると、相手の左ストレートが届きやすくなってしまうため、左にも回ってみる。サウスポーを相手に接近戦を挑む折には、右フックが飛んでくるので絶対に左のガードを高くしておく。クロスレンジでパンチを出す際には、上体から相手に近づいてしまうところがあるので、ステップインを意識する。あるいは、オーソドックス(右構え)にスイッチして右ストレートを狙う......などの課題に取り組んだ。 中谷のこなしたスパーリングの数もさることながら、トレーニング中、一瞬も切れない集中力がWBCバンタム級王者の強さを物語っていた。 2024年10月14日、20時33分に有明アリーナに試合開始のゴングが鳴ると、中谷はまずディフェンシブに動いた。 「序盤は防御をメインとして、チットパッタナを"勉強"したんです。それで、当たるパンチが『まずはジャブだな』と。ファーストラウンドに左ストレートも一発いいのがヒットしたので、あとはタイミングを計りました。ただ距離をとっていると相手に休む時間を与えてしまうので、中にも入ったんです。そのほうがチットパッタナも手を出すので消耗しますから。クロスレンジでどのパンチが当たるかを試したら、右アッパーだとわかりました。 相手がどういうタイミングで打つかを理解しないと、恐怖を感じますよね。でも、わかってしまえば懐に入れるじゃないですか。それで、チットパッタナのタイミングを学んだんです」