美輪明宏「病に臥せった松尾芭蕉 最晩年の名句〈秋深き隣は何をする人ぞ〉。俳句を発明した日本人はすばらしい」
歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。 10月号の書は「秋深き隣は何をする人ぞ」です。 【美輪さんの書】美輪さんが書く芭蕉の名句 * * * * * * * ◆秋はちょっぴり寂しく人恋しくなる季節 秋深き隣は何をする人ぞ これは松尾芭蕉が亡くなる2週間ほど前に、旅先の大坂で病臥しているときに詠んだと言われる句です。「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」と並ぶ、芭蕉の人生最終期の句だと言われています。 病に臥せ、寂寥感に包まれているとき、隣家に人の気配を感じ、ぽっと温かい気持ちになったのかもしれません。ちなみに松尾芭蕉の命日「時雨忌」は11月28日(旧暦10月12日)です。 秋が深まると、元気な人間でもちょっぴり寂しくなったりします。そんなとき、人の営みが感じられると、なんとなくほっとするもの。ところが最近は隣家の物音や子どもの声を《騒音》と捉える人も多いようですね。 もちろん騒々しいのは迷惑ですが、人の気配が過剰に気になるのは、寛容の心を失っている証拠。もしかしたら心が病みかけているのかもしれません。
◆日本の美意識や情緒は、精神の栄養 それにしても、たった十七字で深い表現ができる俳句を発明した日本人は本当にすばらしい。「季語」を入れるのも、四季に恵まれた日本ならではの約束事です。私は以前から、子どもには子守歌を歌って聞かせ、詩や俳句を読ませるのが大事だと言ってきました。日本の美意識を凝縮した文学である俳句に触れることで、子どもの情操が育つと思っているからです。また、若い人にも年配の人にも俳句に親しんでいただこうと、私の公式携帯サイト「麗人だより」で、俳句を募集したこともあります。 俳句は奥が深いので、なかなかすぐには作れないかもしれません。でも、先人のすぐれた作品を味わうことはできるはず。日本の美意識や情緒は、精神の栄養となります。栄養不足にならないよう、たまには俳句で養分を補ってみてはいかがでしょうか。 ●今月の書「秋深き隣は何をする人ぞ」 (構成=篠藤ゆり、撮影=御堂義乘)
美輪明宏