「雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」開催。VRの新たな可能性を探る
アーティスト・雨宮庸介の東京の美術館で初個展「雨宮庸介展|まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」が東京・外苑前のワタリウム美術館 で開催される。会期は12月21日~2025年3月30日。 雨宮庸介は1975年茨城県生まれ、山梨県在住。Sandberg Institute(アムステルダム)Fine Art Course修士課程を主席にて修了。ドローイング、彫刻、パフォーマンスなど多岐にわたるメディウムによって作品を制作してきた。 とくに2014-3314年にかけて行われているプロジェクト「1300年持ち歩かれた、なんでもない石」はライフワークであり、リンゴや石や人間などのありふれたモチーフを扱いながら、超絶技巧や独自の話法などにより、いつのまにか違う位相に身をふれてしまう感覚や、認識のアクセルとブレーキを同時に踏み込むような体験を提供している。 本展はワタリウム美術館を舞台に制作された最新VR作品を中心としつつ、「溶けたりんごの彫刻」や「石巻13分」の記録映像、「1300年持ち歩かれた、なんでもない石」のペーパーなど、その代表作を一堂に体験できる展覧会となっている。 とくに最新のVR作品は「まだ溶けていないほうの山梨」(山梨県立美術館、2024)からはじまり、「大地の芸術祭」「Kyoto Interchange」などで発表されたVRへの取り組みの1年間の総決算というべき新作。「ここではないどこか」に行くためのヘッドセットをあえて「どこかではないここ」に再注目させるためのデバイスとして定義する。 本展について雨宮は次のようにコメントしている。 今回の展覧会タイトル「まだ溶けてないほうのワタリウム美術館」は「溶ける以前の状態が継続している」という、実はデュシャン以降のアートをアートたらしめている「過去完了」をそっと召喚しようと試みます。同時にこれは、平和にみえる無関心な日常さえも実は「まだ戦争が起きていないほうの静寂」でもあることを顕在化せんとするものです。 今回の展示は、活動初期から現在までを部分的ながらも一貫して見通せる構成をとります。一番古いものは2000年初頭の作品群で、一番最近のもの、つまりこれを書いている時点でまだ存在していないものは、設営期間にここで撮影されるVR作品です。本来「ここではないどこか」に自身をカジュアルに転送するために設計されているはずのVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を使用しつつ、むしろ「どこかではないここ」に丁寧に連れ戻し、この世界そのものについて肯定を試み、仮に祝福にまでこぎつけると「この世界」と「この世界」が秘密裡に並走しはじめる。そこで獲得されるべきは大きな物語における普遍性ではなく、普遍性に適ったパーツを集めて再構成される「新しい私たち」、または「わたくしたちといふ現象」もしくは「普遍性2.0」のようなもの。そしてそれらの創生はいかにして可能か。 そんな仮説を今読んでいるあなたにそっと耳打ちすること、それこそが僕なりのアートの実践であり本展覧会で試みられることです。 2024年10月 雨宮庸介(プレスリリースより)