富岡八幡宮と世襲歓迎の弊害──「地盤相続社会」における村々の“小権力”
歴史ある富岡八幡宮(東京都江東区)でショッキングな殺人事件が起きました。姉弟による宮司の跡目争いが原因とみられています。 建築家で文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋さんは、「家」の世襲であったり、宗教や政治など多方面でみられる「地盤相続」を、日本社会の長期的課題ととらえます。世襲はなぜ受け入れられてしまうのでしょう。 ----------
家業としての宗教
何とも猟奇的な事件であった。 富岡八幡宮の宮司刺殺事件は「積年の怨み」が原因という。死んでからも怨霊となって祟ると宣言していることから、菅原道眞、平将門と並ぶ、いやそれ以上に恐ろしい崇徳天皇の怨霊伝説を想い起こした。これに比べれば山村美紗のミステリーなど可愛いものだ。 もちろん金銭が絡んでいる。 筆者は最近、京都や奈良や日光などの観光客が集まる神社仏閣が、拝金主義化していることを感じていた。実際に相当の金が集まり、しかも宗教法人は課税されないというから腹立たしいが、富岡ではその金銭を自由にできる地位を追われたことが怨みとなって積もったのだ。 そしてこの例に見るように、多くの寺の住職や神社の宮司が、世襲されている。つまり宗教家の子が特権を相続する「家業」となっているのである。
家業としての政治
考えてみれば今の日本では、政治家も圧倒的に世襲議員が多く、国も地方も「家業」と化しているのが現実だ。 その典型が安倍晋三首相である。岸信介、安倍晋太郎、そして晋三と、首相クラスの政治家が三代にわたるのは珍しい。現政権の50パーセントが親の地盤を受け継いだ世襲議員で、親が地方議員や首長であったものを入れると、70パーセントに達するという。 先にこのサイトに書いた「安倍政権のやまとごころ」という記事でも触れたように、安倍首相は、すでに神格化されている吉田松陰を尊敬し、「日本会議」という神社本庁とつながりの深いグループに支持されている。首相とその派閥である清和会は、思想性において、日本神道と神社神宮に近いところがあり、自民党の中でも「精神保守」というべき性格をもっている。 またもう一つの与党は、巨大な仏教系の宗教をバックにしているのだから、現政権は、日本列島に深く根ざした宗教と絡み合っている。広い意味での政教分離が揺らいでいるのだ。