魔女はなぜとんがり帽子をかぶり、ほうきに乗り、大鍋でイモリの目玉をゆでるのか
魔女を魔女たらしめるものは何か、魔女の必須アイテムとその由来を振り返ってみた
魔女を魔女たらしめるものは何か。黒い服と細長いとんがり帽子を身に着け、ほうきにまたがり空を飛ぶだけではない。ときにはいぼがある老婆であったり、ときには人魚姫のような美女であったりするが、それだけでもない。アメリカン・ポップカルチャーのアーキタイプ(原型)となったこのような魔女のイメージは、近世の魔女狩りの歴史が今に至るまで影響を及ぼし、魔女と呼ばれる人物に対して多くの人が強い関心を持っていることの表れだ。 ギャラリー:魔女のイメージをつくった「西の悪い魔女」と「グリムヒルデ王妃」 写真と画像4点 そこで、魔女の大鍋、とんがり帽子、ほうき、黒猫が、どのようにして魔女の必須アイテムとなったのかを振り返ってみよう。
魔法の薬を作る大鍋
真夜中の闇のように黒く大きな鍋に、イモリの目玉などありとあらゆる恐ろしい材料を入れてぐつぐつと煮込む魔女、というイメージが生まれたのは、おそらく1400年代の終わり頃だった。 1489年に、ドイツの法律家ウルリヒ・モリトールが、『魔女と女予言者について(De Lamiis et Phitonicis Mulieribus)』という、魔術に関する初の図解書を発表した。これは、その数年前に発表されたドイツ人修道士のヨハン・シュプレンガーとオーストリア人修道士で宗教裁判官のハインリヒ・クラーマーによる『魔女に与える鉄槌(Malleus Maleficarum)』への反論として書かれたものだった。 クラーマーは魔術について、体と魂を悪に捧げ、キリスト教を棄て、洗礼を受けていない乳児をいけにえとしてサタンに差し出すことを要求するものであり、あらゆる異端のなかで最も忌むべきものであると宣言した。 これに対してモリトールの本は、一連の木版画でクラーマーたちの考えを否定し、魔女の姿や行動に関する一般的な誤解を解こうとした。ところが、印刷され広く出回った版画絵を繰り返し目にした人々の頭には、視覚的な印象だけが残り、魔女に対する悪い概念を払拭することはできなかった。モリトールの木版画の1枚には、大鍋にオンドリとヘビを入れる2人の魔女が描かれている。 16世紀後半には、カトリックもプロテスタントも、魔女が力を得るためにサタンと契約を結んだと考えるようになっていた。その力の一つは、鍋で魔法の薬を作るという能力だった。こうして、大鍋を取り囲む女たちという構図は魔術と同じ意味を持つようになった。