経営不信感高まる…〝異例の事態〟起きたシャープ、成長戦略どう描くか
呉前社長、赤字続きのまま退任
呉副会長が社長に在任した2年間、シャープの経営は赤字続きだった。原因は22年3月に当時の戴正呉社長の下で決めた大型液晶工場「堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市堺区)」の買い戻しだ。 シャープはSDPへの過大投資などが原因で経営不振に陥り、16年に台湾・鴻海精密工業の傘下に入った。鴻海の下でシャープは17年3月期を最後に当期赤字から脱し、コロナ禍などに見舞われながらも黒字経営を続けてきた。 その中で決まったSDP買い戻しには、疑問を呈する声が多かったが、呉副会長は22年4月、会長兼最高経営責任者(CEO)の立場で「テレビ以外へのシフトも考えており需要は増える。買い戻しは正しい判断だ」とし、買い戻しを支持した。しかし、SDP子会社化後、大型液晶パネルの市況は低迷し、中型パネルへの事業転換も進まずにSDPは赤字に陥り、シャープ本体も再び当期赤字に転落した。 呉副会長は24年5月になって、当期赤字の最大の要因が「ディスプレイデバイスの不振」であり、各事業への投資が不足して市場開拓などが進まずに競争力が低下する「負のサイクルに陥った」と経営の失策を認めた。 同時にSDP稼働停止と中小型液晶事業の縮小、半導体などデバイス事業の撤退、人員削減などの構造改革策を発表。家電やオフィス機器、通信機器などに集中しつつ、AIやEVなどに挑戦し「既存のブランド事業と新産業の正のサイクルを創り、持続的成長を実現する」と宣言したが、施策を実行する前に社長を退くことになった。
賃貸・人員出向、液晶工場の活用模索
沖津社長の新体制で最初の課題となるのは、当期赤字の原因である液晶パネル事業の構造改革を進めることだ。コスト競争力で勝る中国勢などとの競争環境が厳しいほか、スマートフォン向けの需要も減少しており、事業を縮小せざるを得ない状況だ。 そのため、大型液晶工場のSDPは9月末までに稼働を停止する。現在は供給責任を果たすため、「パネルの作りだめをしている」(パネル業界関係者)という。稼働が止まった後のSDPは、建屋や電力供給インフラなどを生かし、ソフトバンクやKDDIなどがAIデータセンターとして活用する方向で検討を進める。SDPの一部の従業員は、熊本県にあるソニーの半導体工場に出向させる方向で、「既に一部の社員には辞令も出た」(半導体業界関係者)との話も聞かれる。 SDP以外でも稼働率が低下する液晶工場の活用策を模索しており、三重工場(三重県多気町)や亀山工場(同亀山市)では、建屋を半導体関連企業に従業員付きで貸し出す交渉が進む。 シャープは液晶事業を需要に合わせて縮小し、余剰の工場を旺盛な設備投資が続く半導体やAIデータセンターといった成長事業に向けて売却、賃貸し収益改善を図る考え。ただ、現時点では具体的な決定事項は公表されておらず、25年3月期に目指す当期損益の黒字化にどの程度貢献できるかはまだ見通せていない。