起業のきっかけは「工賃が6000円程度だった」障害者福祉への強い違和感 鹿児島発の新しい福祉のかたちは「才能を活かす仕事づくり」
クラフトビールづくりから広がる共生社会へ
――2022年5月にクラフトビール事業「ひふみよブリューイング」も始めました。 「ひふみよブリューイング」は福祉事業所としての指定は受けず、純粋な事業として始めました。10年間の福祉事業活動を通じて、障害だけでなく、貧困などさまざまな社会課題に直面する方々と出会いました。そこで、イタリアのソーシャルファームという仕組みにヒントを得て、多用な個性を持つ人々が働ける場所を作ろうと考えたのです。 クラフトビールを選んだ理由は、まず私自身が好きだということです。我々の活動は、スタッフ自身が夢中になれることから生まれるケースを推奨しています。 クラフトビールは手作業が多く、工程を分解してワークシェアリングがしやすいということも理由です。また、ボトルのラベルデザインには「ひふみよベース紫原」のメンバーのアート作品を活かすことができます。さらに、鹿児島の農産物の規格外品を活用してアップサイクルもできる。事業の組み立て方によっては、地域にソーシャルインパクトをもたらす可能性が大きいのです。 醸造所は天文館から歩いていける場所に設置し、5つのタンクで同時に5銘柄を醸造できる仕組みを導入しました。少量多品種生産にこだわり、90種類以上のクラフトビールを製造してきました。 2023年10月には天文館に直営のビアレストラン「46かごしまクラフト」もオープンしました。小さな店ですが、メンバーの作品を店舗ブランディングのグラフィックや、ギャラリーのような見せ方のインテリアとして採用しており、それがお客様との対話や新しいプロジェクトのきっかけにもなっています。 また、醸造過程で出る麦芽かすの活用にも取り組んでいます。産業廃棄物として処理すると料金がかかるため、乾燥させて食品に転用したり、農業の肥料として活用したりしています。ほかにも、醸造補助の作業を通じて事業所のメンバーが社会研修をおこなう「課外活動」も実践しています。 ――白澤さんが目指す社会像を教えてください。 みんなが個性を認めあえる社会を作りたいですね。見た目や性別、障害、病気、宗教などで制限されることのない世界です。就労支援を通じて実感するのは、一人ひとりが得意なことをのばせば、誰にもまねできない才能を発揮できるということです。 平均的な「まん丸」の人間を目指すのではなく、「でこぼこ」でいいと考えています。「まん丸同士」は表面がツルツルしあって、かみ合うことはない。「でこぼこ」同士だと、どこかのデコとボコでかみ合い、新しい可能性の源泉になることがあると思っています。「でこぼこ」に突き抜けた才能が輝ける未来を作りたいと考えています。 私たちの施設の利用者さんはみな、磨けば光る原石です。その可能性に気づき、伴走しながら価値を創造していくことが私たちの喜びでありミッションです。これからもワクワクしながら活動を続けていきたいと思います。
朝日新聞社